雪くんは、まだ足りない。



「蘭ちゃん」


「…ち、違います…」




すぐ近くから聞こえてきた声に諦めてしまいたくなるけど、やっぱり諦めきれなくて抵抗する。


しん…と静まり返った教室にきっとまたわたしの方へ視線が集まっていると思って体が熱くなる。


指の隙間を少し開けてみた。


机の上に両腕を置いてその腕に顎を乗せ、こっちを見ているかっこいい顔が見えてすぐ隙間を閉じる。




「ね、蘭ちゃんでしょ」


「…人違いですっ」


「俺のこと覚えてない?」


「知りませんっ」


「俺は覚えてるよ、蘭ちゃんのこと」




この人は…なんの話しをしてるの…?


遊馬くんのこと覚えてるか?
覚えてるも何も…今日初めてあったのに。