雪くんは、まだ足りない。


手を握られて立ち上がる遊馬くんに合わせて、わたしも立ち上がる。


後ろから「あーあ、怒らせちゃった」、「どう考えても勇だろ」、「俺!?いや絶対たろーだろ!?蘭ちゃんに名前呼ばせたりするから!」なんて声が聞こえた。


遊馬くんの言う奥、とは。


今わたしたちがいるフロアのエレベーターとは逆の壁の方に一つだけ扉がある。


遊馬くんがズボンのポッケから何かを取り出して、金属が擦れる音がしたと思ったらガチャっと鍵が開く音。


ここだけ鍵がかかった部屋なのかな。


招かれて入ったそこはまさに誰かの部屋。


本棚にはたくさんの小説、ベッドにガラステーブルと椅子、テレビにふかふかソファーまである。