最後の旋律を君に

最後の音が静かに消えていく。
まるで夜空に溶けていく星の光のように、儚く、静かに。

律歌は鍵盤からそっと指を離し、ゆっくりと振り返った。

奏希くんはベッドの上で、微かに微笑んでいた。
その姿はあまりにも脆く、今にも消えてしまいそうだった。

「……ありがとう、律歌」

かすれた声が、静寂の中に溶けていく。

「奏希くん……」

律歌がそっと手を伸ばすと、奏希くんは震える指で何かを握りしめていた。

「……これ……受け取ってほしい」

ゆっくりと開かれたその手のひらに、繊細な銀の指輪が乗っていた。
小さな石が月光を受けて儚く輝いている。

「……奏希くん、これは……?」

「ずっと……渡したかったんだ」

律歌の手をそっと取ると、奏希は震える指で、律歌の薬指に指輪を通した。

「本当は……ずっと一緒に生きて、もっとたくさんの時間を過ごしたかった……」

その言葉に、律歌の胸が締め付けられる。

「だけど……僕は……」

律歌は、そっと奏希の手を握りしめた。

「そんなこと言わないで……奏希くん」

目の奥が熱くなる。
でも、今だけは泣きたくなかった。

「たとえ時間が少なくても……私は……私は奏希くんと一緒にいられて、幸せだよ」

奏希くんが、微かに微笑んだ。

「僕も……」

指輪にそっと唇を寄せ、奏希くんは目を閉じた。

「律歌……君の音は、ずっと僕の中に生き続けるよ」

まるで、夜の静寂に溶けるように――。