最後の旋律を君に

「皆様、少しお話しできますか?」

その声に、律歌はハッとした。

待合室にいた奏希くんの親御さんも鈴子も響歌も、律歌の両親も同じような反応だった

直感で何かが違うと感じた。

心臓が少し早く打ち、全身が凍りついたような感覚に襲われる。

医師の表情は真剣そのものだった。律歌はただ、その視線を見つめることしかできなかった。

「奏希さんの容態ですが……危険な状態です」

その一言で、律歌の足元が崩れるような感覚に襲われた。呼吸が苦しくなる。世界が揺れる。

「手は尽くしていますが、今夜が山場でしょう」

"今夜が山場"。

その言葉の意味を、律歌はすぐに理解できなかった。理解したくなかった。

「うそ……」

誰が呟いたのかもわからない。だが、誰もが同じ気持ちだった。

「そんなの……そんなの……」

響歌が震える声で言い、鈴子が泣き崩れる。奏希くんの親御さんの顔は蒼白だった。律歌の両親は俯き、泣いていた。

律歌は何も言えなかった。

“今夜が山場”。

――つまり、今夜を超えられなければ、奏希くんは……。

嫌だ。そんなの、絶対に嫌だ。

「……会えますか?」

声を絞り出すように、律歌は尋ねた。

担当医は一瞬ためらったが、やがて静かに頷いた。

「家族の方と、特別に許可された方なら……」

律歌はすぐに、奏希くんの病室へと駆け出した。

響歌も鈴子も、両親も奏希くんの親御さんも後に続く。

――待ってて、奏希くん。

心の中で叫びながら、律歌は必死に走った。