最後の旋律を君に

カフェ巡りから数日が経ち、律歌の心には少しだけ余裕が生まれていた。
奏希くんの言葉のおかげで、友達との時間も大切にしようと思えるようになったからだ。

 ――次は、響歌と一緒に過ごす時間を作りたい。

 そう思いながら、律歌は放課後、家に帰るなりリビングへ向かった。

 「響歌、ちょっといい?」

 ソファに座って雑誌をめくっていた響歌が顔を上げる。

 「何?」

 律歌は少しだけ緊張しながら、でも真剣な目で響歌を見つめた。

 「今度の休日、一緒に遊びに行かない?」

 響歌は目を瞬かせた。

 「……え? どうしたの、急に?」

 「ううん、特に理由はないけど……」

 律歌は小さく笑った。

 「最近、響歌とちゃんと遊んでなかったなって思ったから。どこか行きたいところ、ある?」

 響歌はしばらく律歌の顔をじっと見つめていたが、やがて少し困ったように視線を逸らし、雑誌を閉じた。

 「……まあ、別に予定はないけど」

 「本当に?」

 「……うん」

 響歌は少し照れくさそうにしていたが、その表情にはどこか嬉しさも混じっているように見えた。

 「じゃあさ、ショッピングとかどう? 一緒に服とか見に行きたいな」

 律歌が提案すると、響歌はちょっと考えてから、「いいよ」と短く答えた。

 「本当に?」

 「しつこいなぁ……行くって言ってるでしょ」

 響歌はそっぽを向いたが、頬がほんのり赤くなっているのを律歌は見逃さなかった。

 ――やっぱり、響歌も喜んでくれてるんだ。

 律歌の胸の奥に、温かい気持ちが広がる。

 「楽しみだね、響歌」

 「……まあね」

 響歌はふいに雑誌をパラパラとめくりながら、小さな声で言った。

 「律歌と出かけるの、久しぶりだし」

 その言葉に、律歌はそっと微笑んだ。

 ――次の休日は、響歌と一緒に過ごそう。

 そう思いながら、律歌は心の中で静かに決意した。