最後の旋律を君に

 次の日の放課後。

 律歌は学校を出ると、迷うことなく病院へ向かった。

 奏希くんに会いたい。昨日、先生にピアノのことを相談したけれど、そのことも伝えたいし、何より彼の顔が見たかった。

 病院に着き、廊下を進んでいくと、奏希くんの病室の前に見慣れない女性の姿があった。

 ワインレッドの上品なワンピース。背筋を伸ばし、どこか威厳のある雰囲気を纏っている。

 ――もしかして、奏希くんのお母さん……?

 足を止めた律歌に気づいたのか、彼女はふと視線を上げた。

 「あなたが、宵崎律歌さんね?」

 澄んだ声だった。奏希くんと少し似た、優しい響きを持っている。

 「は、はい……。初めまして、宵崎律歌です」

 思わず背筋を伸ばして返事をすると、彼女は微かに微笑んだ。

 「突然ごめんなさい。少し、お話しできるかしら?」

 ――私に、話?

 戸惑いながらも、断る理由はない。律歌は小さく頷いた。

 「……はい」

 「ありがとう。こちらへ」

 彼女は静かに歩き出し、律歌を病室近くの談話室へと導いた。

 心臓が強く跳ねる。

 一体、何を話すつもりなんだろう。

 奏希くんのこと? それとも――。

 律歌はぎゅっと拳を握りしめ、彼女の言葉を待った。