最後の旋律を君に

 演奏が終わった瞬間、観客席から惜しみない拍手が降り注いだ。

 舞台の上で静かに息を整えながら、律歌はその音の波を全身で感じる。

 ホールを包む拍手は、ただの称賛ではなく、祝福のように温かかった。

 ゆっくりと深呼吸をして、隣にいる奏希さんを見上げる。

 彼は優しく微笑み、小さく頷いた。

 「……すごく良かったよ!」

 その一言に、胸がぎゅっと締めつけられる。

 「奏希さんがいてくれたから、ここまで弾けたんだよ」

 律歌がそっと囁くと、奏希さんは穏やかな表情のまま言う。

 「それでも、今日の音は君自身の力だよ」

 舞台袖へ戻ると、響歌が真っ先に駆け寄ってきた。

 「お姉ちゃん、すごかった!!」

 目を輝かせながら、小さな手がぎゅっと律歌の手を握る。

 驚いて瞬きをすると、響歌は嬉しそうに言った。

 「すごかったよ、お姉ちゃん!!私、お姉ちゃんのピアノ大好き!」

 響歌の言葉に、胸がじんと温かくなる。

 「ありがとう、響歌!」

 律歌が微笑むと、響歌はぱっと顔を輝かせ、勢いよく抱きついてきた。

 「約束だよ!」

 そこへ、鈴子が大きく手を振りながら近づいてくる。

 「律歌! 最高だった!! もう感動して泣きそうになったよ!!」

 そう言いながら、本当に涙を拭っていて、思わずくすっと笑ってしまう。

 「ありがと、鈴子。来てくれて嬉しかった」

 「当然でしょ! でも、本当にすごかった……ピアノって、こんなに人の心を揺さぶるものなんだね」

 鈴子の言葉に、律歌は今日の演奏を振り返る。

 奏希さんと一緒に奏でた音が、誰かの心に届いた――それが、何よりも嬉しかった。

 そのとき、後ろから静かな拍手が聞こえた。

 振り向くと、両親がゆっくりと歩いてくる。

 「……律歌、本当に素晴らしかったわ」

 母の目には涙が滲んでいた。

 「あなたのピアノをまた聴ける日がくるなんて……」

 父も静かに頷く。

 「ずっと悩んでいたのは知っていた。でも、今日のお前の演奏を聴いて、これが律歌の進む道なんだと確信したよ」

 父の言葉に、胸がじんわりと熱くなる。

 「お父さん、お母さん……ありがとう」

 それしか言葉にならなかった。

 今日という日は、律歌にとってかけがえのないものになった。

 そっと隣を見やると、奏希さんが変わらない優しさで見守っている。

 ――この音を、これからも奏で続けたい。

 この想いを胸に刻みながら、律歌は静かに微笑んだ。