最後の旋律を君に

「律歌、お姉ちゃんらしく、もっと自信持ちなよ!」

 響歌の弾んだ声が、華やかなドレスショップに響く。

 発表会を明日に控え、響歌と一緒に衣装を選びに来た律歌は、並ぶドレスの前で戸惑いがちに立ち尽くしていた。

「うーん……でも、こういうのって、なんだか私には派手すぎる気がする……」

「何言ってるの! ピアノの発表会だよ? しかもあの高城奏希さんと一緒に出るんだから、もっと華やかにしないと!」

 響歌は律歌の腕をぐいっと引っ張り、ドレスのラックへと連れていく。

「ほら、これとかどう?」

 差し出されたのは、淡いブルーのドレス。

 スカート部分には繊細な刺繍が施され、シフォンの生地が軽やかに揺れている。

「……すごく綺麗」

 思わず律歌は手を伸ばした。しかし、次の瞬間、少しだけためらってしまう。

「私に似合うかな……?」

「似合うに決まってるでしょ!」

 響歌は腕を組み、まっすぐに言う。

「お姉ちゃん、前よりずっと表情が柔らかくなったし、今なら絶対に映えるよ」

「……そうかな」

「そうだよ! ほら、とりあえず試着してみて!」

 響歌に背中を押され、律歌は試着室へと向かった。

 鏡の前でそっとドレスの裾を広げる。淡いブルーの布が光を受けて優しく揺れた。

(……なんだか、本当に変われた気がする)

 ピアノを辞めていたあの頃とは違う。

 今はもう、逃げてばかりじゃない。

 響歌と向き合い、両親とも話せるようになり、そして――奏希の隣に立つために、舞台へ上がる。

「……似合ってる?」

 カーテン越しに響歌の声が弾む。

「……うん、すごく!」

 ドレスの裾を握りしめ、小さく微笑む。

 明日の舞台が、少しだけ楽しみになってきた。