「――んっ・・・・・・」
重たい瞼を持ち上げると見慣れた天井。
なにか夢を見たような気がするけど、思い出せない。
心地よく沈みこんでいた体をベッドから起こす。
「芹那ー!降りていらっしゃい!!」
「はーい」
下からお母さんの声が聞こえて返事をして下のリビングへと向かう。
いつもと同じ朝なのに、なにかモヤモヤした気持ち。
「芹那ちゃん、おはよう。はい、これ!」
「・・・・・・?」
リビングに着くと朝ごはんの匂いと紙袋を私に笑顔で差し出すお母さんがいた。
これは、なに?
「新しい制服よ」
「制服変わるなんて説明あったっけ?」
「あら、何言ってるの?学校が変わるんだもの制服も変わるに決まってるでしょ?」
「・・・・・・はい?」
「あら?言ってなかったかしら?」
不思議そうに首を傾げながら、とても舞い上がっているお母さん。
「ねぇ、どういうこと?」
いきなり制服を渡されて今日から学校変わるなんて言われてはい、そうですか。なんていうバカなんているはずがない。
友達だっていたし、部活動だってある。
「詳しく話してる時間はないわ!お迎えの方から聞いて!」
「いやいや、お迎えって・・・?」
いつもならもう少し話が通じるはずなのに今日は一段と話が通じないお母さんに頭が痛くなる。
頭を押さえているとお母さんが後ろに回り込んで私を朝食の席まで誘導する。
「芹那ちゃん、ママはね娘と恋バナがしたいのよ!!」
「・・・・・・?」
それと私の転校がどんな関係があるのか知りたいレベルに話が結び付かない。
恋バナを娘とできない事がお母さんにとってはとても不服なのかハンカチで滲む涙を拭いていた。
「だから、心を鬼にしてママは決めました!恋愛を学んでいらっしゃい!芹那ちゃん!!」
恋愛を学ぶ?勉強ではなくて恋愛?
心を鬼にして何を勝手に決めたというのかさらに頭が痛くなったが、お母さんはとても大真面目らしい。目を見ればわかった、冗談ではない事が。
