噂の最強少年は女の子

後ろを見ても追いかけてくる人間はいない



なんであたしが首突っ込まなきゃダメなの
あいつらには関わらないって決めたのに
あんなふうに産まれたての子鹿のように震える姿を見たら手を差し伸べるしかないじゃん







「はぁー、」







「なぁ」






あたしのため息と変わらない声で話しかけられる





「ありがとう」






「いや、べつに」






「助かった
もう手を離しても大丈夫だと思う」





顔の前に繋がれた手を持ち上げられれば顔に熱が集まるのがわかる
慌てて手を離して、ゴシゴシとズボンで手を拭く
無意識だった




「わり、わざとじゃねぇ」




「ほんとに俺に照れてるの?
それとも…男が好き?」





「好きなわけねぇだろバカ!!」




想像してなかった言葉に慌てて否定を叫ぶ



こてんと首を傾げて疑問をなげかけてくるのは
バカにしてるとかじゃなくて、ただ、気になってるだけ


純粋にこの質問はタチ悪いよ



つか



「そ、そんなこと言うお前の方が女の前で真っ赤になってポンコツとか使えねぇじゃねぇか!
どっちかって言えば、男が好きなんだろっ!!!!」






はんっと鼻で笑えば顔が強ばる
あ、触れちゃダメだったやつ




「言い過ぎだ、ごめ」





「違うよ
ただ、苦手なだけ



男が好きとか女が嫌いじゃない
けど、薫とは仲良くなれそうな気がする」






離れたはずの右手にまた熱が戻る
あたしの右手は静の両手に包まれたらしい


人の体温ってこんなに暖かいとか、あたしなんで手を握られてるのかとかよくわからない感情でキャパオーバー





「もう、無理」





「え?ちょ、薫??」






頭に血が上る感覚を最後に意識を手放した