2022年4月。大学を卒業し、晴れて新社会人になった私(仮称:H)。就職先は中小ゼネコン。3ヶ月の研修期間のあとは現場監督をすることとなる。

2022年7月。
初めての建設現場へデビューを果たす。右も左もわからない場所で彼(仮称:K)と出会った。私は監督、彼は下請け業者の職長という関係だった。
初めの印象は‘ヤクザ…?‘だった。
細い眉と眉間の皺がとにかく印象的だった。恐怖。
それでも容姿端麗、身長は7等身ぐらいはあるんだろうか。
まつ毛が長くて、顔がすごく小さい。
こんなモデルみたいな人は映像の中や街でしか見かけたことがなかった。
正直あまり関わりたいと思う人相ではなかった。
竣工間際(建物が完成してお客様へ引き渡しをすること)だったので、1週間ほどしかその現場にはいなかったので、言葉を交わすことはなかった。
たくさんの下請け業者が挨拶せず現場を立ち去っていく中で、彼だけが最後に挨拶へ来たことが印象的だった。意外と硬派な人なのかな。
そんな印象で最初の出会いは終わった。

2023年11月。
人生で3件目の現場常駐となる。
そこそこ知識と経験が身についてきて、現場が楽しい、仕事にやりがいを持ち始めた頃である。(ここではこう書いているが、先輩方に比べればスズメの涙ほどの知識と経験であることをここに弁明させていただいておく)
彼との2度目の出会いだった。
内心は‘げ…いる〜…‘と思いながら、彼をやや避け気味に仕事をしていた。本当は良くないことなんだろうけど、彼は本当に人相が怖いし、見た目が綺麗すぎて心底話しかけにくいのだ。
それと、私が担当している業務は彼と話す必要がほとんどないので、問題がなかったことも話かけなかったことに大きく起因している。
あいにく彼も私に気づいていないようだったし、ことなきを得ていた。

2023年12月。
ここで急展開が起こる。
現場巡回をしている時に彼から話かけられるのである。
‘Hさんどこかで会ったことありますっけ…?Yの現場とか?‘
ぎくりとした。恐怖のあまり反射的にこう返した。
‘Sさん(女性の先輩)と勘違いしていると思いますよ‘
‘なんだ、気のせいか〜、すんません‘
危機一髪免れたと思ったのも束の間、この会話も上司により嘘だとバラされてしまい、ここから少しずつお話をする仲になっていく。
‘ほら〜やっぱり会ったことあるじゃないですか!‘
‘すみません、人相怖くて知らないフリしてしまいました(照)‘
‘俺良く言われるんですよ〜、そんな怖い?‘
‘話してみると意外と怖くないです‘
ここから現場で重たいものを持ってくれたり、何かと見かけるたびに話しかけてくれるようになった。職人気質の怖い人がいる中で、彼が、Kくんが私の中で癒しの存在となっていた。
大変な現場だったけど、K君と話すのを楽しみに毎日頑張った。話が飛躍しているようだけど、K君の前でかっこつけて仕事したかったんだと思う。そういう意味で頑張った。

2024年1月8日
とうとう連絡先を交換することになる。
この頃にはK君に憧れと好意があった。
彼女とかいそうだな、サムネイルが彼女との2ショットだったらどうしようとか、考えていた。
ドキドキしながらいざ交換してみると可愛いキャラクターがアイコンだった。
逆にK君から
‘サムネ彼氏やん?!‘
‘これは妹です!‘
ややこしいことにショートカットの妹が男に見られてしまったのだ。顔を隠した感じの写真を使用していたため、誤解を招いてしまった。
そこから、出身地のこと、年齢のこと、今日(休日)は何しているのか、等半日くらいラインした。
電話も提案されたが、声が低いので遠慮した。
やりとりすればするほどK君のことを知れた気がして嬉しかった。彼女がいないことを知って内心がつつポーズをした。K君もそうだったらいいなとか考えて少し酸っぱい気持ちにもなった。
スマホの通知が来るたび嬉しかった。
仕事以外でも一緒に遊べるような仲になれたらいいなとか、私の中で欲望がたくさん溢れた。
好きってこういうことだろうな。片思いでもなんだかウキウキしていられた。好きな人のことを知ることってこんなに素晴らしいことなんだと、私以上の幸せものはいないって確信していた。こんな楽しい時間をずっとK君と過ごせますようにって神様へ願いごとしながら毎日寝てたよ。