家に着くと珍しくお父さんが先に帰ってきていた。

「ただいま...」

月は父の逆鱗に触れないよう控えめな声で言った。
その時だった。待っていましたとでもいうかのようにリモコンが月の顔目掛けて飛んできた。

「今何時だと思っているんだ‼︎!帰ってくるのが遅いぞ!」

 父はリモコンが顔に当たり、へたり込んでいる月の髪の毛を引っ張り、歩き始めた。

「やはりお仕置きが必要か。地下室へ行くぞ」

月にとって地下室は恐怖の場所だった。そこへ行くと父と母の行為がエスカレートするからだ。殴る、蹴るだけではないそこへ行くと性行為まで強いられていた。一日中そこに閉じ込められ、与えられるのは水だけ。

地下室に着くと、真っ白なワンピースを渡された。これは私が暴力を受けていると知られないようにするためだ。制服が汚れると学校に怪しまれてしまう。

 着替えている時だった。服を持ち上げた拍子にポケットに入っていたカイロが床に落ちた。急いで拾おうとしたが、父はそれを見逃すわけがなかった。

バチん

平手打ちを食らった。

「(いつもは顔にはやらないのに)」

「こんな贅沢なもの!与えた記憶はないぞ!まさかバイト代を勝手に使ったのか⁉︎」

父の逆鱗に触れてしまった月は怒鳴り続ける父の暴力に耐え続けていた。

カイロの温かさが無くなった月の心や体はだんだん冷たくなっていった。ーーまるで太陽の光が消えていくように...




「うぅ痛いよ...怖いよ...助けて...」

月が目を覚ますと目の前には地下室の大きな扉が目に入った。いつの間にか気を失っていたのだ。光の入らない地下室。どれくらいの時がったたのか知ることができない。

「(携帯も取り上げられてしまったし、どうしよう)」

そんなことを考えていると月はふと先ほどの子供の声を思い出した。
あの声は月が父母のやることに恐怖を持っていた時の言葉だった。父に必死に謝りながら泣いていた頃を思い出し、胸がちくりといたんだ気がした。