神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

…大学生とか社会人とか、帰省するのが面倒臭いお年頃、じゃないんだぞ。

まだまだ、親の愛情が必要な子供なんだぞ。

それなのに、一度入学すれば、卒業するか退学するまで、家に帰れないなんて。

夏休みも冬休みもなし?週イチの休み以外、来る日も来る日も毎日勉強?

あまりにも過酷なスケジュールだ。

「…やり過ぎだ。過労死するぞ」

「ついてこられない者は、早々に退学しています」

あぁ、そうか。

この学校に残っているのは、そんな過酷な毎日に耐えられる社畜、ならぬ学畜のみ。

生徒をふるいにかけるとは、よく言ったもの。

「じ、じゃあ…生徒は卒業するまで、家族に会えないの?一度も会えないの?」

他国ながら、生徒が気の毒になったのだろう。

シルナは愕然として、案内役を問い詰めた。

「家族が面会に来れば、面会室で1時間くらいは話が出来ますよ」

「…」

何それ。

それはもう学校じゃなくて、刑務所じゃないか。

親兄弟から引き離され、ほとんど休みもなく。

毎日毎日、ひたすら小難しい魔導理論を頭に叩き込むだけの日々…。

…そんな生活を、キルディリア魔王国の子供達は本当に望んでいるのだろうか?

「良かったら、生徒と話をしてみますか?」

「え?」

案内役が、そう提案した。

「あのイーニシュフェルト魔導学院の学院長殿が直々に訪ねてきたとあらば、生徒達も喜ぶでしょう」

訪ねてきたって言うか…。…お宅の女王様に呼ばれただけなんだけど。

「図書室にご案内します。そこに生徒がいるはずです」

「あ、あぁ…」

俺達は、キルディリア国立魔導師学校の図書室に連れて行かれた。

校舎は広くてた大きいけれど、図書室の広さはそれほどでもなかった。

あんなに学生がいるのに、本の数は意外と少ないんだな。

でも、置いてある本は全て魔導書か、あるいは魔法に関する書籍ばかり。

一般の書籍は、一冊も置いていなかった。

そして、その図書室の自習コーナーでは、たくさんの生徒がずらりと並んで座り。

一生懸命、勉強に励んでいた。

これは、イーニシュフェルト魔導学院の放課後の図書室でも見られる光景だが。

でも、こんな姿だけじゃない。

学院長室におやつをねだりに来る生徒もいれば、稽古場でナジュに面白おかしく実技を習う生徒もいて。

中庭では、マシュリ扮する猫、いろりと遊んでやっている生徒もいる。

それに、令月やすぐりが園芸部で野菜を育てているように、部活に打ち込む生徒もいる。

…まぁ、あの園芸部は、ちょっと気合いが入り過ぎてる気もするが。

何せ、腐葉土を自作するくらいだからな。

でも、それが健全な生徒の姿ってものじゃないのか。

勉強するだけが、生徒の仕事じゃない。

この学校の生徒達には、笑顔が見えない。

声を上げて笑うどころか、かすかな微笑みを見せる生徒さえいない。

案内役が、近くで勉強している女子生徒に声をかけた。

「ちょっと、君」

「はい」

勉強中、邪魔をしてごめんな。

突然声をかけられたにも関わらず、その女子生徒は俺達を見ても、驚くことも表情を変えることもなかった。

子供じゃなくて、大人を相手にしているような気分だった。