神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

そりゃ、ジャマ王国出身の令月とすぐりは…知らないかもしれないけどさ…。

「あなた達には、地理の授業が必要なようですね」

イレースが二人のことを、ギロッと睨んだが。

ナジュが、からかい口調で天音にこう言った。

「だって。天音さんも一緒に、地理の授業に参加します?」

「ひぇっ…」

…何だと?

「天音さんもご存知ないそうですよ」

「な、ナジュ君。それを言わないでっ…!」

…まぁ、天音も元々はこの時空、この大陸の出身じゃなかったからな。

知らなくても無理はな、

「ついでに、僕も知りませんので。みんなで仲良く、イレースさんの地理の授業でも受けますか!」

…お前も知らないのかよ。ナジュ。

偉そうに言える立場じゃねぇ。

「…この愚か者共…」

イレースが、ちっ、と舌打ち。

怖っ…。

「マシュリは…知ってるのか?」

「一応…。『HOME』にいた頃に、知識だけは」

「そうか…」

お前は偉いな。マシュリ。

…とはいえ、俺もあまり詳しく知っている訳じゃないが。

「羽久さんも知らないんじゃないですか」

「うるせぇ。心を読むな」

知識としては知ってるよ。…行ったことはないけど。

「どんな国なの?そのキルディリア、って国」

と、すぐりが尋ねた。

「えぇと…。キルディリア魔王国は、アーリヤット皇国と海を挟んだ島国で…」

「学院長せんせーは、行ったことあるの?」

「…うん…。2、3回だけだけど」

「へぇー。旅行?」

「いや…旅行ではなくて…。呼ばれたから行っただけだよ」

…記憶にある。覚えてるぞ、俺も。

もう何年も、ずっと前になるが…シルナが、キルディリア魔王国に招待されたのだ。

「呼ばれたって…何をしに行ったんですか?」

「えぇっと…それは…」

「あ…。…あの時のことですよね」

シュニィも覚えていたか。

あれは確か、シュニィがまだイーニシュフェルト魔導学院に在学中のことだったよな。

「何て言うか…。まぁ、ちょっと色々あって…」

明らかにシルナは、言いたくなさそうだった。

しかし。

「何です。勿体ぶってないでさっさと言いなさい」

イレースは、苛立ちも露わに話の続きを催促した。

…言いたくなさそうだから聞かないでおこう、という情けは、イレースにはないらしい。

相変わらず…容赦ないなぁ。

「あなたの個人的な出来事なら聞かないでおきますが。今は国家の趨勢を左右する緊急事態です。情報は共有してもらいますよ」

「うん…。そうだね、イレースちゃんが正しいよ」

…だな。