神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

いくらイシュメル女王が、「転職」先で好条件を約束してくれたって。

平気で人を苦しめるような…そんな国に、移住したいとは思わない。

ましてや、現在進行系で戦争をやってる国に。

「イシュメル女王。何度誘われても、何度頼まれても、私は自分の国から離れないよ。あの国には、私が培ってきた全てがあるんだ」

そうだ。

シルナは、俺と…いや、正しくは「前の」俺と…平穏に生きていく為に、その住処としてルーデュニア聖王国を建国し。

そして、故郷の名を冠するイーニシュフェルト魔導学院を作り…そこに根付いて生きてきた。

今に至るまでずっと、守り続けてきたのだ。

時には辛いことも、悲しいこともたくさんあった。耐えられないと思うことも。

だけど俺達はいつだって、あの場所で、時に血を流し、涙を流し、懸命に生きてきた。

これからも、その生き方を変えるつもりはない。

「だから、もう私達をルーデュニア聖王国に帰らせて。フユリ様からのお返事は伝えた。…もう、充分だよね?」

「…」

イシュメル女王は扇で半分顔を隠し、じっとシルナを見つめていた。

…ここまで言われてもなお、まったく怯むことのない態度は立派なものだが…。

「…そうか」

たっぷりと間を開けて、イシュメル女王が呟いた。

「…残念じゃよ。ここまで言ってもまだ、聞き入れてくれなんだとは…」

「…」

「どうあっても、考えを変える気はないということじゃな」

シルナは頷き、俺も同じように頷いた。

すると。

途端に、イシュメル女王は敵意の眼差しをこちらに向けた。

…!

マズい、と思った時には遅かった。

王の間に、王宮の近衛兵達がなだれ込み。

ずらりと並んで、俺達を取り囲んだ。

あらかじめ、こうなることが分かっていたかのように。

俺は、慌てて立ち上がったが…。

「動くな」

「…っ…!」

俺達を取り囲んでいるのは、金色の証明書をぶら下げた上級魔導師達だった。

いくら俺とシルナでも、この数の魔導師を相手にするのは不利だった。

「…これは何のつもり?」

狼狽える俺に反して、シルナは静かだった。

静かに、冷静にそう尋ねた。

「抵抗するな。わらわは、おぬしらを傷つけたくはない」

取り囲んでおきながら、何言ってるんだ。

やる気満々じゃないかよ。

「…ここで私達を無事に返さなかったら、国同士の問題になると思うけど?」

「分かっておる。だからこそ、穏便に済ませようではないか」

と言って、イシュメル女王が立ち上がった。

穏便って、今更何を…。

「手荒な真似はしたくない。アーリヤット皇国との戦いに加え、これ以上敵も増やしたくはない。だから、賢明な判断を頼むぞ」

「…何を…」

「聖賢者シルナ・エインリー殿。そして羽久・グラスフィア殿。おぬしらは、この場で我がキルディリア魔王国に亡命せよ」

「…!?」

どうして。何でそんなことを。

しかし、本当に俺を驚かせたのは、イシュメル女王の次の言葉だった。

「さもなくば…おぬしらが断るならば、わらわはルーデュニア聖王国に宣戦布告する」

「…!」

「愛する祖国を守りたいなら、わらわに屈せよ」