神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

…しかし。

シルナは、そんな目先の欲に目が眩むような奴ではなかった。

…まぁ、チョコレートには目がないけどな。

「…前にも言ったよ。私はいかなる理由があっても、ルーデュニア聖王国から離れたりしないよ」

よく言った。

シルナにとっては、第二の祖国のようなものなのだ。

簡単に離れられるはずがない。

…そして、俺にとっても。

「おぬしが執着しているのはルーデュニア聖王国ではなく、イーニシュフェルト魔導学院であろう」

と、いつも通りイシュメル女王は、扇で口元を隠しながら言った。

「ならば、学院ごと持ってくれば良い。この国に、第二のイーニシュフェルト魔導学院を作れば良いのじゃ」

…学院は、工作か何かじゃないんだぞ。

作るって言ったって…そんなに簡単に出来ることじゃない。

それに、今イーニシュフェルト魔導学院に在学している生徒達はどうなるんだ。

彼らを見捨てて、校舎だけ運んでこいって言うのか?

「優れた魔導学校の創設は、わらわとしても願ってもないこと。最高の環境を用意してやろう」

「…」

「聖賢者殿だけではないぞ。おぬしもじゃ」

と言って、イシュメル女王は俺の方を向いた。

えっ…お、俺?

「魔導師なら、誰でも歓迎じゃ。子飼いの魔導師達も、全員まとめて連れて来るが良い」

「子飼い…って、イレースや…シュニィ達のことか…?」

「あぁ、そうじゃ」

シルナだけじゃなくて。

俺も…イレースや天音達、イーニシュフェルト魔導学院の魔導師も。

それに、聖魔騎士団の魔導師達まで受け入れると。

それはそれは…寛大な申し出じゃないか。

そう言えば、俺達が未練なく移住出来るとでも?

…そのくらいの知恵は回るようだな。

でも、まだ甘い。 

「…魔導師じゃなかったら、どうなるの?」

「…なに?」

俺が考えたのと同じことを、シルナが問いかけた。

「私の仲間には、魔導師じゃない子もいるよ。魔法が使うのが苦手な子もいる」

…俺達の仲間には、魔導師が多いけど。

中には、アトラスみたいに魔導師じゃない者もいる。

それから、マシュリも厳密には魔導師じゃないし。

令月も、使える魔法は力魔法のみという、魔導師としては非常に偏った存在もいる。

それでも彼らは、れっきとした俺達の仲間だ。かけがえのない仲間。

だけどこの国では、魔導師じゃない人々は酷い差別を受ける。

魔法が使えないアトラスは。マシュリは。

偏った力魔法しか使えない令月は。どんな目に遭う?

彼らが青いカードをぶら下げて、人々に蔑まれて虐げられる姿を想像するだけで、俺は叫び出したくなるほどの憤りを感じた。

「彼らは受け入れてもらえないの?仮に入国したとしても、差別を受けるよね?」

「…」

「他の仲間達だって、魔導師だからって特権階級が欲しいとは思ってないはずだよ。魔導師じゃない人々を差別しようなんて思わないはずだよ」

その通り。

俺の仲間達は誠実だし、平等だ。

例え三食昼寝付きを保証されたって、こんな国に移り住みたいなんて思わないはずだ。