「あぁ、忙しい忙しい」
口癖のように言いながら、イレースさんは凄まじい勢いでペンを動かしていた。
…手際良いなぁ…。
その横では、マシュリさんが猫の手を器用に駆使して、ペタペタと印鑑を押し。
更にその横で、令月さんが錐で書類に穴を開けて、ファイルに綴じて整理していた。
更にその隣にはすぐりさんがいて、両手に糸魔法を絡ませて、不要な書類を微塵に切り刻んでいた。
…令月さん。君の目の前に、穴開けパンチがあるよ。
それとすぐりさん。君の右隣に、シュレッダーがあるんだよ。
イレースさんも教えてあげれば良いのに…。
「…。…はぁ…」
「?どうしました、天音さん」
「…ナジュ君…」
僕が小さく溜め息をこぼすと、ナジュ君が声をかけてくれた。
「元気がないですよ。ほら、チョコレートあげますから」
「あ、ありがとう…」
チョコレートで励ましてくれるなんて、学院長先生みたいだね。
ナジュ君は僕に、小石くらいの小さなチョコレートを一粒、くれた。
夕飯前だけど…ちょっとくらい良いよね?
折角ナジュ君がくれたんだし。
いただきます。
ぱくりとチョコレートを食べると。
「…!これ美味しい」
「でしょう?」
一口噛むと、チョコの中から甘酸っぱい木苺のソースがたっぷりととろけ出てきた。
それがまた絶妙な甘さと酸っぱさで、ほんのりと苦いチョコレートと口の中でハーモニーを奏でている。
市販のチョコよりもずっと濃厚で、コクのある味。
「凄く美味しいね、これ…」
「勿論。学院長の秘蔵のチョコですから」
…えっ?
びっくりして、ナジュ君の方を見ると。
ナジュ君はにっこりと微笑んでいて。
「学院長が鍵付きの引き出しの中に隠してた、秘蔵の高級チョコなんですよ」
「えっ…。こ、これ学院長先生のチョコなの…!?」
「ご明察!」
ご明察、じゃなくて。
道理で、美味しいと思った。
「だ、駄目だよナジュ君。学院長先生がいない間に、勝手に…」
帰ってきてこのチョコを食べようと引き出しを開けて、なくなってるのを見たら悲しむよ。
「大丈夫ですよ。たくさんあるんですから。一つくらいなくなったってバレません」
「そういう問題じゃなくてね、ナジュ君…」
「それに、これ、もう賞味期限ギリギリなんですよ。食べないと勿体ないじゃないですか」
あ…そうなんだ。
それは確かに…。このまま賞味期限切れで食べられなくなったら、勿体ないもんね。
すると。
「大体、それもこれも、あの二人が帰ってこないのが悪いんです」
と、イレースさんが言った。
…それは。
イレースさんが、猫の手や生徒の手を借りてまで、たくさんの仕事に追われているのも。
賞味期限がギリギリのチョコレートを、ナジュ君が失敬して食べてるのも。
元暗殺者の二人が、学院内の罠を強化しているのも、全部それが理由。
…キルディリア魔王国に向かった学院長先生と羽久さんが、いっこうに帰ってこないから、なのだ。
口癖のように言いながら、イレースさんは凄まじい勢いでペンを動かしていた。
…手際良いなぁ…。
その横では、マシュリさんが猫の手を器用に駆使して、ペタペタと印鑑を押し。
更にその横で、令月さんが錐で書類に穴を開けて、ファイルに綴じて整理していた。
更にその隣にはすぐりさんがいて、両手に糸魔法を絡ませて、不要な書類を微塵に切り刻んでいた。
…令月さん。君の目の前に、穴開けパンチがあるよ。
それとすぐりさん。君の右隣に、シュレッダーがあるんだよ。
イレースさんも教えてあげれば良いのに…。
「…。…はぁ…」
「?どうしました、天音さん」
「…ナジュ君…」
僕が小さく溜め息をこぼすと、ナジュ君が声をかけてくれた。
「元気がないですよ。ほら、チョコレートあげますから」
「あ、ありがとう…」
チョコレートで励ましてくれるなんて、学院長先生みたいだね。
ナジュ君は僕に、小石くらいの小さなチョコレートを一粒、くれた。
夕飯前だけど…ちょっとくらい良いよね?
折角ナジュ君がくれたんだし。
いただきます。
ぱくりとチョコレートを食べると。
「…!これ美味しい」
「でしょう?」
一口噛むと、チョコの中から甘酸っぱい木苺のソースがたっぷりととろけ出てきた。
それがまた絶妙な甘さと酸っぱさで、ほんのりと苦いチョコレートと口の中でハーモニーを奏でている。
市販のチョコよりもずっと濃厚で、コクのある味。
「凄く美味しいね、これ…」
「勿論。学院長の秘蔵のチョコですから」
…えっ?
びっくりして、ナジュ君の方を見ると。
ナジュ君はにっこりと微笑んでいて。
「学院長が鍵付きの引き出しの中に隠してた、秘蔵の高級チョコなんですよ」
「えっ…。こ、これ学院長先生のチョコなの…!?」
「ご明察!」
ご明察、じゃなくて。
道理で、美味しいと思った。
「だ、駄目だよナジュ君。学院長先生がいない間に、勝手に…」
帰ってきてこのチョコを食べようと引き出しを開けて、なくなってるのを見たら悲しむよ。
「大丈夫ですよ。たくさんあるんですから。一つくらいなくなったってバレません」
「そういう問題じゃなくてね、ナジュ君…」
「それに、これ、もう賞味期限ギリギリなんですよ。食べないと勿体ないじゃないですか」
あ…そうなんだ。
それは確かに…。このまま賞味期限切れで食べられなくなったら、勿体ないもんね。
すると。
「大体、それもこれも、あの二人が帰ってこないのが悪いんです」
と、イレースさんが言った。
…それは。
イレースさんが、猫の手や生徒の手を借りてまで、たくさんの仕事に追われているのも。
賞味期限がギリギリのチョコレートを、ナジュ君が失敬して食べてるのも。
元暗殺者の二人が、学院内の罠を強化しているのも、全部それが理由。
…キルディリア魔王国に向かった学院長先生と羽久さんが、いっこうに帰ってこないから、なのだ。


