神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

「君は魔導師のことを、神様か何かだと勘違いしている。でも私達は神様じゃない。間違うことも、失敗することも、迷うことだってある」

…その通りだ。

特にシルナの優柔不断さは、毎度イレースに舌打ちされてるくらいだからな。

「羽久が私に失礼なことを考えてる気がする…」

「良いから」

「…とにかく、私達は神様じゃないんだよ。確かに魔法は使えるけど。それ以外は普通の人間と変わらない。何も特別な存在なんかじゃないんだ」

と、シルナは自分の考えを語った。

それをイシュメル女王は、扇で口元を隠しながらじっと聞いていた。

「私はこれまで、色んな人に会ってきたよ。魔導師にも、魔導師じゃない人にも。魔導師でも意地悪で冷たい人はいるし、魔導師じゃなくても優しくて親切な人はいる」

「…」

「人の多様性や可能性、価値観を、魔法が使えるかどうかだけで判断するのは、あまりに視野が狭いんじゃないかな」

仮にも一国の女王相手に、「視野が狭い」と言い切るとは。

シルナでなきゃ、とても言えない言葉だな。

言葉の重みが違うんだもん。

「…それにね、今は、その体制で上手く行ってるかもしれないけど。これから先もずっとそうなるとは限らないよ」

「…どういう意味じゃ?」

「君達のやってることは、かつてイーニシュフェルトの里で行われていたことに似てるんだ」

シルナ…。

何もそこまで言わなくても、と思ったが…。

「優れた魔導師である自分達だけが特別だと思い込んで、里の外の人々を見下していた…。人々は自分達優秀な里の魔導師が率いる必要があるって、当たり前のように考えていた」

「…」

「だけど、その結果どうなった?今はもう、イーニシュフェルトの里は何処にもない」

俺にとっても他人事ではない話だ。

そして、イシュメル女王にとっても…。

「過ぎた支配も、抑圧も、そして驕りや優越感も、いずれ一つの大きな悲しみに変わる。その後には何も残らない」

「…つまり、我が国もイーニシュフェルトの里と同じ運命を辿ると?」

「そうなるかは分からない。でも、このままの在り方じゃ、この国には良い未来は見えない」

今日のシルナは、いつもの優柔不断さが嘘のように、はっきりとした口調で言った。

…俺もそう思う。

「人が人を傷つけて良い理由なんてないんだよ。…誰であっても」

という、シルナの真っ当な持論を。

イシュメル女王は、じっと黙って聞いていたが。

しかしその顔を見れば、彼女が納得していないのは明らかだった。

…そりゃそうだよな。

そう簡単に説得出来るのなら、苦労しない…。

「…そうか。おぬしがそう思うのなら、それでも良かろう」

何だその言い方は。

お前はそう思うのか。私はそうは思わないけどね。みたいな。

「つまり、我らと志を同じくするつもりはないと?」

「それが、フユリ様のご意思ですから」

「…そうか」

失望した様子だったが、俺達がそう答えることも、ある程度は予測していたのだろう。

必要以上に取り乱すことはなく、それは傍らのシディ・サクメも同様だった。