神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

イシュメル女王は、ぞっとするような冷たい目をしていた。

「おぬしらはすぐにそれじゃ。魔導師も、非魔導師も、同じ人間だと言う」

「…当たり前のことだろ?」

「違うな。まったく違う。魔導師には力がある。しかし、非魔導師には力がない。それは変えようのない、絶対的な違いじゃ」

…。

「非魔導師に出来ることは、魔導師にも出来る。しかし魔導師に出来ることは、非魔導師には出来ない。所詮、種族が違うのじゃよ」

「それはそうだが…。でも、だからって…」

差別して良い訳じゃないだろ。

魔導師の中にだって差はある。大きな魔法を使える者、小さな魔法しか使えない者…。

彼らはお互いに支え合って、互いに足りないところを補い合って生きていく。

それが当たり前の、人の世というものだろう。

「人を差別するのは悪い、か。…まぁ良いじゃろう。仮に、おぬしの言う通りだとして」

仮じゃなくても、俺の言う通りだろうよ。

「おぬしも、我が国の歴史を知っておろう」

「えっ…」

突然の問いかけに、俺は一瞬口ごもった。

…シルナとシュニィに、掻い摘んで聞いた程度だが。

「我らは昔、この不毛の島に流されてきた。ただ魔法が使えるというだけで、人扱いされなかったのじゃ」

「…そのことは…。…俺も、聞いたけど」

「我らはその時の屈辱を忘れてはいない。魔導師というだけで苦しめられた、辛い歴史を乗り越えてきたことを」

「だからって…。だからって、今度は自分達を苦しめた人々に復讐をするのか?」

差別されたから、差別し返して。

かつて自分達が味わった苦しみを、別の人に押し付けて。

そんな負の連鎖を、永遠に繰り返すつもりなのか。

「憎しみは憎しみを生むぞ。今は非魔導師の人々も、あんたらの言いなりになってるかもしれない。だけど、憎しみが反抗を呼ぶ日が来る」

「好きにすれば良いわ」

イシュメル女王の返事は、そつないものだった。

…何?

「憎しみが反抗を呼ぶ?やれるものならやってみよ。魔法も使えない非力な連中が、魔導科学の粋を極めたわらわ達魔導師に、何が出来る?」

はんっ、と鼻で笑うような態度。

「群れて竹槍の練習でもしているのが精々じゃろう。反乱を起こしたいなら好きにすれば良いわ。国内から非魔導師を一人残らず殲滅する、良い口実になる」

あろうことか。

自分の国の民を…殲滅する口実になる、なんて…。

「良いか、どんなに人の形をしていても、魔導師と非魔導師には埋められない高い壁があるのじゃ。非魔導師が種族として、我らよりも遥かに劣った存在であることは明白」

「…」

「劣った種族を、秀でた種族が管理するのは当然のことじゃろう」

自分達魔導師こそが優れていて、その他は劣っている。そう信じて疑っていない。

その圧倒的な傲慢さに、俺は言い返す言葉を失ってしまった。

この人は、この歪んだ価値観に囚われている。

俺がどんな言葉を使ったって、考えを変えることは少しも…。

「…私は、そうは思わないよ」

「…シルナ」

言葉が思いつかなかった、俺に代わって。

シルナが、ぽつりとそう言った。