神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

「あんなものが締結されてしまえば、我が国も他人事ではいられん。これは守る為の戦争じゃ。わらわには、自国の民を守る義務がある。その為に戦っているのじゃ」

世迷い言を。

詭弁じゃないか。都合の良い言い訳じゃないか。それは。

自国の民を守る義務がる、だと?

よくぞ言えたものだな。

「…自国の民、じゃない。自分の国の魔導師、の間違いだろ」

ついに、俺は黙っていられなくなった。

俺にしては、むしろここまでよく我慢したもんだ。

「…なに?」

イシュメル女王は、ちらりとこちらに視線を向けた。

「アーリヤット皇国にちょっかいをかける前に、少しは自分の国のことを省みたらどうなんだ」

「どういうことじゃ」

「魔導師ばかりを贔屓して、非魔導師の国民を蔑ろにしてることだよ!」

ついに俺は、声を荒げてしまった。

だって、思い出してしまったから。

この国に来てからというもの、魔導師じゃない人々が、どんな風に扱われてきたか。

魔導師じゃないってだけで、予約していたホテルから追い出される。

魔導師じゃないってだけで、家畜車両みたいな窮屈な列車に乗せられる。

魔導師じゃないってだけで、店内で飲食することすら許されず、粗末なものを食べさせられる。

…それに、何より。

子供に魔導適性がないってだけで…親子が無残に引き離された。

俺にはどうしても、あの親子がシュニィと、その愛娘のアイナのように見えてならなかった。

あの、泣き叫んでいた二人の姿がどうしても忘れられない。

あの悲劇を生み出したのは、今俺の目の前にいるイシュメル女王なのだ。

彼女が、非魔導師を差別する国政を行っているから…。

親子を引き離す権利なんて、王様だろうが神だろうが、誰にもない。

「この国で俺達は、魔導師じゃない人達がどんなに酷い扱いを受けているか見てきた。どれもこれも、ルーデュニア聖王国では有り得ないことだった」

いつの間にか、俺は敬語で話すのも忘れていたが。

頭に血が上っていたせいである。

気づいていても、この時ばかりは止められなかったと思う。

「どうしてあんなことをするんだ?フユリ様は決して、相手が魔導師かそうじゃないかで人を差別することはしない。シルナだってそうだ。それなのに、魔導師のあんたが、何であんな酷いことをするんだよ?」

「…」

「魔導師だって、魔導師じゃなくたって…同じ、キルディリア魔王国の国民じゃないか。守るべき国民。…そうじゃないのか?」

あんたは、魔導師の権利を奪わせない為に、アーリヤット皇国に戦争を仕掛けたんだろう?

だったら、非魔導師の権利だって、同じように考えてやれよ。

…しかし。

「…おぬしの国ではどうか知らんが、ここはキルディリア魔王国じゃ。同じ理屈で物を語られては困るな」

「っ…」

女王の返事は、そんな冷たいものだった。