神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

10分後。

緊急事態を聞きつけて、学院長室に教師一同が集合していた。

…それから、マシュリと、それに令月とすぐりも。

マシュリはさっきまでいろりの姿で、中庭で生徒達に遊んでもらっていたらしいが。

シュニィが突然学院にやって来た匂いと音を聞きつけて、すぐさまこちらにやって来たそうだ。

令月とすぐりに至っては、最早声をかけるまでもなかった。

いつの間にか二人共、しれっと、ちゃっかり、学院長室に合流していた。

自分達も大人ですが何か?みたいな顔で。

明らかに今回の件は、子供に聞かせる話じゃないが。

追い出したとしても、素直に引き下がる奴らじゃないし。

これまでも、何度も力を貸してもらっている手前。

今更、令月とすぐりだけ蚊帳の外にする訳にはいかなかった。

…話を戻して。

「戦争って…どういうことなんですか…!?」

事態を聞きつけて駆けつけた天音は、既に顔が真っ青になっていた。

同じく駆けつけたナジュの方は、既にシュニィの心を読んで、ある程度事態を把握しているのだろう。

憮然として、そして難しそうな顔をしていた。

「今…アーリヤット皇国が戦争してるって、本当なんですか…?」

「…えぇ、残念ですが…本当です」

天音の問いかけに、シュニィは沈鬱な面持ちで頷いた。

「…そんな…」

誰よりも平和を望む天音は、戦争という言葉だけで、身が竦んでしまったようだった。

…その気持ちはよく分かる。

俺だって、情けないことに、心の奥がざわざわしているから。

シルナ曰く、俺は人よりも、恐怖や危機に対して感覚が鋭敏になるらしい。

それは俺の中にいる…『前の』俺の影響だ。

『前の』俺…二十音・グラスフィアは、シルナとの平和な日常を壊されることを、酷く嫌う。

その為、ルーデュニア聖王国の情勢の変化には敏感だ。

…一方で。

「戦争って、アーリヤット皇国が?」

「この間、ミカエルとラファエルっていう天使がいた国だよね」

令月とすぐりが、冷静に尋ねた。

…こいつら、大人より余程しっかりしてるな。

「はい…そうです」

「ふーん。あそこ、戦争してんだー」

「それは災難だね」

二人共淡々として、少しも狼狽える様子はなかった。

…本当に、肝が据わっている。

「お前ら…。…少しは怯えるとか、そういうことはないのか?」

思わず、そう聞いてしまった。

すると、むしろ二人共、俺のその質問に驚いたようで。

「怯える?何に?」

きょとんとして、素でそう聞かれた。

「いや…だって…戦争だぞ?」

「うん。戦争だよ?」

「…そんな…特に珍しくもないみたいな…」

それがどうしたの?と言わんばかり。

「だって、別に珍しいことじゃないでしょ」

「えっ…」

「ジャマ王国では、ふつーにあることだよ?」

「…」

…そうだった。