神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

すぐりは勿論令月も、今ではすっかり馴染み過ぎて、違和感がなくなってしまっているけど。

糸魔法も毒魔法も、あれはジャマ王国で、暗殺用の魔法として発展したものだ。

おおよそ一般的な魔法とは程遠い。

「糸…。糸魔法なんて、何に使うんですか?」

「え、えぇと…」

思い出す。すぐりが糸魔法をどんな風に使っていたか。

さながら、自分の手足のように自由自在に操っていたものだが。

「その…相手を縛ったり…。空中で足場にしたり…」

「…」

「物凄く切れ味が良いから、それで敵を切ったり…」

何なら、毒魔法と組み合わせて。

糸に毒を含ませて、敵の身体に突き刺したり。

少しでも使い方を誤れば、自分の身体さえ傷つけかねない、繊細で扱いの難しい魔法だ。

だけどすぐりは、それらの魔法をいともたやすく…。

…しかし。

「…随分…物騒な魔法があるんですね」

「はっ…」

しまった。困惑させてしまっている。

いくらすぐりの得意魔法とはいえ、暗殺者の魔法を教えるべきじゃなかった。

「でも、さすがルーデュニア聖王国。そんな珍しい魔法の魔導科学も発展してるんですね。素晴らしいです」

褒めてくれてありがとう。

その褒め言葉は俺じゃなくて、是非すぐりに言ってやってくれ。

あと、その魔法はルーデュニアじゃなくて、ジャマ王国が発祥だから。

褒めるならジャマ王国にしてくれ。

…なんて、言える雰囲気じゃないけど…。

…すると、そこに。

再び、会場内に「おぉっ」と声があがった。

何事かと思って、声のした方を見ると。

「みな、楽しんでいるかの?」

「…!イシュメル女王…」

真打ち登場、と言ったところか。

ドレスアップしたイシュメル女王が、シディ・サクメを伴って、パーティー会場にやって来た。

「女王陛下…!ご機嫌麗しゅう」

俺達と話していた老紳士も、ご婦人も、若い女性魔導師も。

女王の姿を見るなり、頭を下げ、身を退いた。

イシュメル女王は扇を手に微笑んでみせた。

「よい、よい。お客人と歓談しておったのだろう」

「は…」

「どうじゃ。間近で見たイーニシュフェルトの聖賢者殿は」

「このような方と話が出来て、とても光栄です」

「生涯の誇りですわ」

…それは言い過ぎだっての。

ほら、褒められ慣れてないシルナが、俺の隣で困ったような顔をしている。

「そうじゃろう。正真正銘、『あの』聖戦を終わらせた聖賢者殿じゃからな」

「…」

何だか含みのある言い方。

…やめてくれよ。本当に。謙遜じゃなくて。

シルナにとっては、思い出したくない過去なんだから。