神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

「あの…。外で、立って食べてる人がいるじゃないですか。たくさん…」

「はい…」

「あの人達が食べてる、お粥みたいな食べ物が気になって…。…あれは、お店の中では食べられないんですか?」

と、シルナが丁寧に尋ねた。

すると、店員さんは笑い出した。

…客を笑うとは良い度胸だな、おい。

「お客様、あれは青カードの食べ物ですよ。魔導師の食べるものじゃありません」

「え…?」

「あのお粥は、無能な非魔導師の為に政府が栄養バランスを考えて作った、青カード専用のエサなんです」

「…」

俺も、シルナも絶句した。

そして、気づいた。

外でお粥を食べていた人達。

あの人達が首から提げていたのは、青いカードだった。

そして、このお店の中。

そこで優雅に紅茶のおかわりをしていた男性も、向こうで朝から焼き立てクロワッサンを頬張る女性も。

目の前にいる店員さんも、提げているのはシルバーのカード。

つまりここは、魔導師専用のお店なのだ。

魔導師だけが、お店の中で、席に座って、サービスの紅茶をおかわり自由で淹れてもらって。

魔導師だけが、トーストやパンケーキやサンドイッチや、たくさんのメニューの中から好きなものを選ぶことが出来る。

だけど…魔導師じゃない人は。

店の中で座ることも許されず、まるで給食を配布されるみたいに、政府が決めたメニュー…雑穀を入れたお粥…を、立ち食いしている。

そんなことまで、差をつけなきゃいけないのか?

良いじゃないか。魔導師がお粥を食べたって。非魔導師がお店の中で紅茶を飲んだって。

何で…そんなことまで、差をつけて…。

「…」

「…?お客様、どうかされましたか?」

…どうかされましたか、はこちらの台詞だ。

正直、今すぐ席を立って出ていきたかった。

そして、首から提げている、このオレンジ色のカードを引き裂いて、ゴミ箱に叩き込んでやりたかった。

でも出来なかった。

これじゃ、昨日と同じだ。

この国の文化に、この国の決まりに抗うことは出来ない。

俺達は、ただの異国人でしかないのだから。

「…」

「…羽久…」

俺が、必死に堪えているのを察したのだろう。シルナが気遣って声をかけてくれたが…。

「…俺は…」

「お客様、ご注文はいかがされますか?」

困り顔の店員さんが、改めてそう聞いてきた。

「…。すみません。…食欲ないので…。コーヒーだけで…」

「あ、えと…。じゃあ私は、ホットミルクだけ…」

俺はシケた注文だけをして、シルナもそれに倣った。

「は、はい…かしこまりました」

お粥を欲しがってたかと思うと、今度はコーヒーとホットミルクだけ、なんて。

変な客だなと思ってたに違いないが、注文を受けてくれた。

その後届いたコーヒーも、シルナのホットミルクも、なんと1杯分の値段でおかわり自由、というサービス精神の旺盛さだったが。

俺達はその1杯しか飲まなかったし、しかも、何の味も感じられなかった。