神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

この国は恐ろしい国だ。

キルディリア魔王国に、たった一晩泊まっただけで、俺はそのことを痛感していた。

ジャマ王国に対しても、かつて俺はそう思った。

親が子を捨て、その子を国が暗殺者として育て、他国に刺客して送り込むような国。

令月とすぐりの祖国、あんなに酷い国は他にはないと思っていた。

だけど、ここにもあった。

ジャマ王国とはまた違う恐ろしさが、この国にはあったのだ。

先客であった非魔導師の男性を追い出して、居心地の悪い部屋で、俺とシルナは一晩を過ごした。

長旅で疲れているはずなのに、ほとんど眠れなかった。

多分、シルナもそうだったと思う。

翌朝になっても、気分は優れないままだった。

…正直、もうこのホテルには一分一秒だって、長居したくはなかった。

チェックアウトの時間になると、俺達は真っ先にホテルのフロントに行き、支払いをした。

しかし、ホテルのスタッフは、相変わらず俺達の不機嫌の理由が分からないようで…。

「おはようございます。随分と早く出ていかれるんですね。…朝食はお済みですか?」

支払いをしている最中に、そう尋ねてきた。

「いや…。…まだだけど」

「ホテル内にレストランや売店がありますよ」

「…ちょっと、あまりそういう気分じゃないから」

これ以上、このホテルに居たくないんだよ。それだけだよ。

「そうですか…。でしたら、この近くに飲食店街がありますから、是非行ってみてください」

「…あ…。…どうも…」

とてもじゃないけど、呑気に朝飯、って気分じゃない。

だが、このホテルスタッフに悪意がないことは分かっている。

八つ当たりしたって仕方なかった。

俺達はチェックアウトを済ませ、にこやかにお辞儀をするホテルスタッフに愛想笑いを返して、忌々しいホテルを出た。

…はぁ。

「…随分早くでてきてしまったけど、これからどうする?」

「王都に向かって…。王宮に行かなきゃいけないね」

「…そうだな…」

むしろ、ここからが本番なのだ。

…うじうじしてても仕方ない。

よし。

「…シルナ、朝飯食べに行こうぜ」

「え?」

「この近く、飲食店街があるって言ってただろ?」

少しでも陰鬱な気分を振り払おうと、俺はそう提案した。

折角、外国まで遥々やって来たんだぞ?

観光に来たんじゃないということは、百も承知だが。

少しくらい、旅行気分を味わっても良いのでは?

と言うか、そのくらいの心の余裕はあった方が良い。

それに、シルナの糖分補給にも。

「シルナお前、全然甘いもの食べてないじゃないか」

「…!…そういえば」

ほら。大好物のおやつを忘れるほどに、心の余裕がない。

船に乗った当初は、持参したチョコ菓子だの、船の中で買ったアイスクリームだのを、ばくばく食べていたけれど。

途中から、酷い船酔いでほとんど何も食べられず。

昨日入国してからは、お互い何も食べていない。

ここいらでシルナに糖分を補給させないと、いざって時に頭が働かないぞ。

何せシルナは、お砂糖で稼働してるんじゃないかってくらい、甘いものが好きだからな。

「羽久が私に失礼なことを考えてる気がするけど、久々に身体が糖分を欲してて、それどころじゃない…!」

「そうか」

それじゃ、思いっきり補給してくれ。