神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

俺達が唖然としていると、そこにホテルスタッフがやって来た。

何事もなかったみたいに、にこやかな表情で。

「お騒がせ致しました。お部屋の準備が出来ましたので、ご案内致します」

いや、ご案内じゃなくてさ。

「あの…さっきの男の人は…」

「え?…あぁ、お客様は何も気になさらなくて結構ですよ」

「でも…あの人、部屋を取ってたんじゃないのか?もしかして、あの人を追い出して俺達の部屋を…」

「…?そうですけど…」

…やっぱり。

もう無理か?もう遅いか?

シルナが青ざめて、ホテルスタッフに訴えた。

「さ、さっきの人っ…。急いで呼びに行かないと…!」

「え、何故ですか?」

な、何故ですかって。

「だって、あの人が先に部屋を取ってたんだろう?」

一ヶ月も前から予約してた、って言ってたじゃないか。

それなのに、今日、いきなりぽっと出の俺達がやって来て、予約してたあの男性を追い出してしまった。

そんなの許される訳ないじゃないか。

…それなのに、俺達が何を焦ってるのか、ホテルのスタッフには分からないようで。

「…?お客様はオレンジカード、魔導師なのでしょう?ですから、これは当然のことです」

「当然って…先客を追い出すのが当然なのか?」

「だって、彼は魔導師ではありませんから」

「…」

…魔導師じゃないから、って。

そんな…そんな当たり前のことのように…。

「魔導師のお客様が優先に決まっています。どうぞ遠慮なさらず」

「遠慮とか…そういうことじゃなくて…!」

「…もうやめよう、羽久」

思わず言い返しそうになったところを、シルナが制止した。

「シルナ…!」

シルナだって分かってるだろう。

魔導師だからとか、魔導師じゃないからとか、そんなものは人を差別する理由にならない。

こんなことが許されてはいけないのだ。魔導師か否かによって、態度や扱いを変えるなんて…。

…しかし。

「私達がいくら言っても無駄だよ。…これが、この国の文化なんだから」

「…!」

「受け入れられないのは分かるよ。だけど…これがこの国の決まりである以上、私達にはどうすることも出来ない」

「…」

シルナの言う通りだった。

俺に何が出来るというのだ。…さっきの彼を追いかけていって、自分達は出ていくからホテルに戻ってください、とでも言うのか?

そんなことしたって、それは俺達の自己満足に過ぎない。

ホテル側は受け入れないだろうし、彼自身…ここまで侮辱されて、差別されて、今更このホテルに泊まりたいと思うはずがない。

シルナの言う通り。俺達には有り得ない価値観でも、これがこの国の文化。常識なのだ。

…それを変えることなど出来ない。

「…ごめん、シルナ」

「ううん…。…私も、羽久と同じ気持ちだよ」

そうだろうな。

魔導師じゃない人が、あんな形で目の前で差別されるのを見て。

俺よりも、シルナの方がずっと傷ついているはずだ。

「…」

それでもホテルのスタッフは、俺達のそんなやり取りが理解出来ないらしく。

変なことを言う客だなぁ、とでも言いたそうに、怪訝な顔で見つめていた。

そのことが、またどうしようもなく虚しかった。