神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

それから、短冊には他にも。

「…これは…」

短冊からはみ出さんばかりに、達筆な筆使いで。

墨と筆で、願い事が書いてあった。

「五穀豊穣」と。

…これは願い事なのか?

「これ…。絶対令月だろ」

「多分ね…」

このイーニシュフェルト魔導学院で、墨汁と筆を常用しているのは令月だけだ。

あいつ、未だに、頑なに鉛筆を使わないんだが。なんかこだわりでもあるのか?

無駄に達筆なものだから、短冊と言うより、書道の作品みたいに見えるんだが。

しかも、五穀豊穣って。

そして、その令月の短冊の隣には。

今度は、令月ほど太い字ではないけど、筆ペンで書かれた願い事が。

「豊作祈願」。…だってさ。

…こっちは、絶対すぐりだな。間違いない。

二人揃って、願い事の方向性がおかしい。

ついでに、その横に別の短冊が。

「野菜がすくすく育ちますように」とのこと。

…これは多分、園芸部の部長、ツキナ・クロストレイの願い事だな。

凄いな。名前書いてないのに、誰の書いた短冊なのか分かるぞ。

…すると、そこに。

「…何やってるんです。あなた達は」

「あっ、イレースちゃん!」

例によって、郵便物を届けに来たイレースと遭遇。

笹に吊るされた短冊を眺めている俺達を、冷ややかな眼差しで見下ろしていた。

ひぇっ。

「随分と暇そうですね。羨ましいことです」

イレース渾身の嫌味が突き刺さる。

いてぇ…。グサッと来たよ、今…。

しかし、シルナはそんなことではへこたれない。

「今ね、みんなが描いてくれた願い事を見てたんだよ。良かったらイレースちゃんも、」

「書きません。馬鹿らしい」

ばっさり。

「そう言わず!書いたら織姫様と彦星様が、お願い事を叶えてくれるかもしれないよ?」

「有り得ません。大体織姫と彦星は、怠惰の罪によって引き離されたんじゃありませんか。そんな愚か者に叶えてもらう願い事などありません」

ド正論。

「他力本願とは情けない。自分の願い事は、自分で叶える努力をしなさい」

…まったくイレースにかかったら、織姫と彦星も涙目だな。

身も蓋もない。

「そんなことより、さっさと…」

と、イレースが小言を言いかけた、その時。




   


平和だった日常が、唐突に崩れ去った。




「学院長先生っ、羽久さん…!」

「えっ…。シュニィ…?」

聖魔騎士団魔導部隊隊長のシュニィが、息を切らして駆けつけてきた。