神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

グレードが下がる、とは言っていたものの。

確かに建物自体は少し古かったけど、フロントは結構綺麗だった。

充分、上等なホテルじゃん。

頼むぞ。最後の綱。

恐る恐る、フロントに話しかける。

「ようこそ。いらっしゃいませ」

「あの…すみません、部屋、空いてます?」

「はい。少々お待ちくださいね…」

手元の宿泊者名簿を確認するフロント係。

すると、フロント係は顔をしかめた。

あっ、これはダメな予感。

「そうですね…。…ちょっと、今日は部屋がいっぱいで…」

「あ…」

…やっぱり?

駄目だったか…。最後の希望だったのに。

…しかし。

「…ですが…。…お客様、魔導師証明者はお持ちですか?」

「え?あ、はい…これ…」

俺は、首に提げていたネームホルダーを見せた。

さっきもらったばかりのオレンジ色のカードを。

…すると。

「オレンジカードのお客様ですね…。それでしたら…」

何やら、手元の名簿をゴソゴソ。

「…?」

「…はい、大丈夫です。お部屋、お取り出来ました」

「えっ?」

良いの?

「さっき、空いてないって…」

「大丈夫です。こちらで都合致しますので」

「…??」

…よく分からないけど、やっぱり空いてたってこと?

「お部屋の支度に少し時間がかかりますので、ロビーでお待ちいただけますか?」

「あ、はい…」

「準備が出来たら、すぐにお呼びしますね」

「…」

釈然としないながらも、何とか今日の宿を確保。

良かった。ちゃんと屋根のあるところで眠れそうだ。

「よく分からないけど…。…待ってりゃ良いんだよな?」

「うん…」

俺とシルナは、ロビーに置いてあるソファに腰を下ろした。

安心したけど、何だか腑に落ちないって言うか…。

…すると。

「おい!これは一体どういうことだよ!?」

背後から、突然男性の激高する声が聞こえて。

慌てて振り向くと、男性が数人のホテルスタッフに引き摺られるようにして、連れ出されているところだった。

な、何だあれは?

「良いから、さっさと出て行け!」

男性を半ば突き飛ばして、彼のスーツケースを乱暴に投げ出した。

「俺は客だぞ!?一ヶ月も前から予約してたんだ!何で追い出されなきゃいけないんだ!?」

お、追い出される…!?

「このホテルは、魔導師が優先なんだ。青カードは出て行け!」

「ふざけるな!俺はこの国の人間じゃない。出張で来ただけだ!明日、取引先との大切な会議が…」

「外国人だろうと、所詮無能な青カードなんだろう?知ったことか。段ボールハウスにでも泊まってろ!」

ホテルスタッフは冷たくそう言い放ち、顎をしゃくって、「出て行け」と促した。

そのホテルスタッフの首には、シルバーの証明書がかかっていた。

「畜生!これだから、キルディリアの出張なんて嫌だったんだ…!」

その男性は、吐き捨てるようにそう言ってから。

スーツケースのハンドルを掴んで、ホテルから出ていった。

…もう、外は暗くなり始めているのに。

オレンジカードを持つ俺達でさえ、泊まるホテルを探すのにあんなに苦労したのに。

非魔導師の彼が、果たして今からホテルを探して見つかるのだろうか。

それに…それに。

「シルナ、これって、もしかして…」

俺達は同時に同じことを考えていて、互いに青ざめた顔を見合わせた。