神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

な、何なんだこれは。どうなってるんだ?

「やめてぇぇぇ!連れて行かないでぇぇぇ!」

若い女性は、職員達に取り押さえられながらも、必死に両手を伸ばしていた。

その目は強くカッと開かれ、必死に何かを凝視していた。

そして、若い女性の先にいるのは。

「ママ!ママーっ!!助けてーっ!!」

顔をぐちゃぐちゃにして泣きながら、小さな女の子が、別の職員に無理矢理抱えられ。

何処かに連れて行かれようとしていた。

「連れて行かないでぇぇぇ!その子を返してぇぇぇ!」

「ママーっ!!ママぁぁっ!!」

何が起きているのか分からないけど、これがとんでもない修羅場だということはよく分かった。

多分…これは憶測だけど。

あの女性は、あの小さな女の子の母親なのだ。きっと。

そして、小さな女の子は何処かに連れて行かれようとしている。

母親は娘を取り戻そうと、必死に叫んでいるのだ。

「あ…あれは何なんですか?あの子、あの女の人の子供なんでしょう?」

シルナが、慌てて入国審査官に尋ねた。

しかし、審査官は。

「あぁ…。…そうみたいですね」

うんざりしたような、どうでも良さそうな口調だった。

ぎょっとするような修羅場だというのに、少しも動揺していない。

まるで、こんなものは見慣れていると言わんばかりに。

「そ、そうみたいですねって…」

「お騒がせしてしまって、申し訳ありません。すぐに静かになると思いますから…」

「いや…そうじゃなくて。あの女の子は、何処に連れて行かれようとしてるんですか?何で母親から引き離されようとしてるんですか?」

シルナがそう聞いた時の、審査官の顔。

「何でそんなどうでも良いことを聞くのか?」とでも言いたそうだった。

どうでも良いことのワケないだろ。

だって、母娘共にあんなに泣いて、必死に叫んでるのに…。

「あの子供、魔導適性がなかったんでしょう」

「えっ…?」

「我が国では、満5歳になった全ての子供に魔導適性検査を行う義務があるんです」

魔導適性検査…なら、一応、ルーデュニア聖王国にもあるけど…。

でも…義務ではない。そんなものは、本人の自由だ。

「それで魔導適性があれば良いんですけど。魔導適性がなかったら、原則は国外追放ですね」 

「こっ…国外追放っ…!?」

じゃあもしかして、さっきのあの女の子は…。

…魔導適性検査で、魔導適性がないと判断され。

親元を離され、国外追放されるところ、なのか?

とんでもないことをしているはずなのに、女性入国審査官は、当たり前のようにけろっとしていた。

「仕方ありませんよ。だって魔導適性がないんだから」

「…魔導適性のない子は…親と一緒に生きることも許されない、ってこと?」

「毎年一斉の上納金を納めれば、非魔導師の子供でも住むことが出来ますけど…。…あの親は払えなかったんでしょうね」

「…」

…何でそんなことを、当たり前のように…。

結局あの親子は、俺達の目の前で引き離された。

女の子は船に乗せられ、これから国外に送られるのだろう。

俺には、あの親子が、シュニィとアイナのように見えてならなかった。

他人でさえ、耐えられないくらい悲惨な光景なのに。

俺とシルナ以外の誰も、あの親子に関心を払うことはなかった。