神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

…数時間後。

「うぇぇ…。…気持ち悪…」

「…あぁ…」

…言うな。余計気持ち悪くなる。

キルディリア魔王国への船旅は、快適とは程遠いものだった。

それは決して、船のせいじゃない。

そうじゃなくて、天候と波のせいである。

さっきから、数時間おきに船内アナウンスが流れている。

キルディリア魔王国周辺の海域は現在、天候が非常に荒れているそうだ。

風が強く、波が荒く、そのせいで船は大きく揺れていた。

お陰で、船酔いが酷いのなんの。

俺は、まだ船に入ってからほとんど何も食べてないから、まだマシだが。

シルナは、さっきから調子に乗って、あれこれとばくばく食べていた。

この先の前途の不安を、砂糖で掻き消そうとでもするかのように。

そして、それが仇となった。

お腹いっぱい、さっき買ってきたアイスクリームだの、ベーカリーのパンだの。

それに、持ってきたチョコシュークリームやら、チョコビスケットやらを、ばくばくもぐもぐ…。

…そんなことしてるから、船酔いに苦しむんだよ。

「…おい。大丈夫か?」

「…チョコが…チョコが、私の胃の中で…反乱を起こしている…」

「…」

…そういや、前もこんなことあったな。

お前は学習しない男だなぁ…。

「羽久が…私に失礼なことを…私に失礼なことを考え、おぇぇ」

「…ほら。シルナ。エチケット袋」

「…ありがと〜…」

…へろへろのシルナ。

美しい外の景色を楽しむ余裕もなく、シルナは船室のベッドに横たわり。

エチケット袋を手に、グロッキーな状態であった。

かく言う俺も、さっきから船酔いで気分悪いんだよな。

ずっと、軽い目眩を感じているような…。

…とはいえ、例え元気だったとしても。

デッキに出ても、綺麗な海の景色なんて見られないんだよな。

そもそも、風と波が強いせいで、デッキは立ち入り禁止になっている。

船旅に慣れていない俺達にとっては、「この船本当に大丈夫かな」と非常に不安。

しかし、そんな俺とは対照的に、船の中の人々はくつろいだ様子だった。

さっき、グロッキーシルナの為に、乗務員さんにエチケット袋もらいに行ったんだが。

乗務員さんは慣れたもので、「この辺りの海域はいつもこうなんですよ」と言いながら、エチケット袋だけでなく、酔い止め薬までくれた。

実際、キルディリア魔王国への船旅に慣れているらしい他のお客さん達は。

この酷い揺れでも、まったく動じていないらしく。

ラウンジで飲み物を飲んだり、スナックを摘んだり、本を読んだりしながら、のんびりと過ごしていた。

順調な航海、と言わんばかり。

マジかよ。ツワモノ過ぎるだろ。

…しかし、そういえば、シルナやシュニィの話によると。

キルディリア魔王国は、島流しの流刑地に選ばれるくらい、不毛な島だったんだよな。

人が住むにはまったく適さない気候と、風土…。

…この高い波も、強い風も、キルディリア魔王国にとっては驚くべきものではないのだろう。

そう思うと、何だか切ない思いにさせられた。