神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

一体どうなってるんだ。

『玉響』は…俺達の目の前で死んだ。確かに命を落としたはずだ。

彼の亡骸は、今もイーニシュフェルト魔導学院の敷地内に、丁重に埋葬されている。

…それなのに、今俺達の前にいるその人物は、死んだ『玉響』とまったく同じ顔をしていた。

背格好も同じ、声も同じ。

そっくりさん、とか?いや、そんな訳ないだろ。さすがに。

じゃあ、実は双子の弟がいました、とか?…そんな漫画みたいな展開も有り得ないだろ。

なら整形手術か?俺達の動揺を誘う為に、あの悪趣味な鬼頭夜陰が、別人を『玉響』の顔に整形したのか?

それなら有り得る。

だけど…整形手術で、ここまで元の本人に似せられるものなのだろうか。

これじゃあまるで、『玉響』がそのまま生き返ったみたいな、

「近寄らないで。…偽者」

令月だった。

動揺している俺とシルナを守るように、令月が前に出た。

に…せ、もの?

「令月…この『玉響』は…一体…」

「この人は、鬼頭が作った『玉響』のクローンなんだ」

「くっ…」

クローン、だって?

俺は、シルナと互いに顔を見合わせた。

まさかそんなことまでしているなんて、思ってもみなかった。

人間のクローンを作り出すなんて…。…とても正気とは思えない。

「本物の『玉響』じゃない。『玉響』のゲノムから作られた…別人だ」

「…酷いことを言いますね、先輩」

そのクローン『玉響』が、ゆっくりと口を開いた。

「オリジナルの『玉響』はもうこの世にいない。…なら、今ここにいる僕が本物です」

そう言って。

『玉響』はスッ、と片手を上げた。

瞬間。

「っ!あぶなっ…!」

俺は咄嗟に、シルナを突き飛ばした。

『玉響』の手から、一本の鋭いピアノ線のような糸が射出された。

その糸は強く、鋭く、強靭で。

もしあんなものに貫かれたら、弾丸に撃ち抜かれるのと同じだ。

「…!?なんで、君が…」

その糸魔法を見た令月が、驚きの声をあげた。

俺も驚いた。

…この、洗練された糸魔法。

それは…さながら、すぐりのそれのような…。

「さすがに避けましたか。…やはり一筋縄では行かないようですね」

「…っ、『玉響』…!お前…」

今ここにいる『玉響』は、俺達が知っている『玉響』じゃない。

彼は、こんな魔法は使わなかった。

死の間際、彼は暗殺者であることをやめ、俺達の仲間になろうとしてくれていた。

こんな風に…俺達に敵意を剥き出しにすることはなかった。

令月が、この『玉響』を「偽者」だと呼んだ理由が分かった。

姿形は同じでも、この人は『玉響』じゃない。

『玉響』の姿をしただけの、全くの別人なのだ。

俺は、そのことを確信した。