神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

と、とにかく。

僕の言ってることが嘘じゃないってことは、ナジュ君はよくよく分かっているはず。

それなら、話は早いよね。

「一緒に帰ろう。ナジュ君」

「…」

「…ナジュ君?」

何故か、ナジュ君は僕の手を取ろうとしなかった。

それどころか、その場に立ち尽くしたまま微動だにしなかった。

「…どうしたの?何か…」

「…折角来て頂いたのは嬉しいですが、僕はまだ帰れません」

「えっ」

…な。

…なん、で?

「やるべきことがあるんです。ここで…」

「や…やるべきこと?何?それ」

「…」

ナジュ君は、しばし戸惑ったように視線を彷徨わせ。

「…令月さんとすぐりさんに手出ししないことを条件に、『アメノミコト』の暗殺者に読心魔法を教えることを命じられてるんです」

「…!」

…そんな。

まさか、それが理由なのか。

ナジュ君が、大人しく『アメノミコト』に囚われていたのは。

「それを条件に、地下の拷問室から出されて、今ここにいるんです」

「…そんな…酷い…」

じゃあ、ナジュ君は最初から、この部屋にいた訳じゃなくて。

少し前まで、ずっと…地下の拷問室で、拷問を受けてたってこと?

なんて…なんて酷いことを。

「拷問に耐えるだけなら、僕はいくらでも耐えます。不死身ですしね」

不死身じゃなくても、痛みは他の人と変わらないだろうに。

「ですが…僕がここに留まることを条件に、令月さんとすぐりさんを解放すると言われては、さすがの僕も…決断しない訳にはいきませんから」

「…」

「僕のことは気にせず、二人を連れてルーデュニア聖王国に帰ってください。それが一番です」

なんで、それが一番なの。

僕にとっては…最低の選択肢だ。

「…嫌だよ、そんなの」

僕は震える声で抗弁した。

「ナジュ君を置いていくなんて…一緒に帰れないなんて…そんなの…!」

「…大袈裟ですね、天音さん」

「っ…」

その言葉を聞いて、思わずカッとしてしまった。

何が大袈裟なんだ。大切なことなのに。

ナジュ君は、自分を大切にしなさ過ぎる。

「別に今生の別れって訳じゃありません。僕は不死身ですよ?何が有っても死にません。この国で用事が終わったら、またルーデュニア聖王国に戻ります」

何故か、ナジュ君は微笑んでいた。

こんなの大したことじゃない、と言わんばかりに。

「その時まで、気長に待っててくださいよ。何年後になるかは分かりませんが…いつか、必ず帰りますから」

「…」

…そう。

そうやって…ナジュ君は、自分を納得させたんだね。

自分の命は無限だから。絶対に終わらないから。

生きてさえいれば、いつか帰る機会もあるだろう。

だから自分はこの国に残って…まずは、令月さんとすぐりさんを無事にルーデュニア聖王国に帰らせる。

…そうだね。ナジュ君。

君なりに、一番の最善策を考えたんだね。

確かにそれが一番、合理的な判断だろう。

僕だって…いつかナジュ君が無事に戻ってきてくれるなら、いつまでだって待つよ。

…だけど。

だけど、それはナジュ君が本心から、自分でそう望んだ時だけだ。

誰かに強制されて、本当は寂しいのに、今すぐにでも一緒に帰りたいのに、そんな自分の本心を押し殺して。

仲間の為に、泣きたいのを我慢しながら、自分を犠牲にしようとしているなら。

僕は、それを受け入れる訳にはいかない。