神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

見たところ、普通の…客室みたいに見える。

暗殺者組織に囚われているのだから、もっと、こう…。

「地下の拷問部屋にでも入れられているのかと思ったら、そうでもなかったんですね」

僕が考えていたことを、イレースさんがズバリと言った。

ご、拷問部屋って。

でも、僕も…もっと分かりやすく、牢屋みたいなところに閉じ込められてるんだと思ってた。

そうじゃなかったんだ。

良かった…。それじゃ、手荒な真似はされなかったんだね。

ちゃんと…お客人として、丁重に扱われてたんだ。

僕は、この時点で、ナジュ君が既に一通りの拷問にかけられた後だということを知らなかった。

知っていたら、安心するどころか、憤慨していたに違いない。

「それじゃ、まずは変態読心教師から助けますよ」

「へ、変態って言うのはやめてあげようよ…」

ナジュ君は良い人だよ。…ちょっと変わってるだけで。

僕は、ナジュ君がいるという客室の扉の取っ手を掴んだ。

意外なことに、その扉は鍵がかかっていなかった。

ギー…と音を立てて、扉が開いた。

…部屋の中で、ナジュ君はこちらに背を向けて、テーブルの前に腰掛け。

何やらノートと本のようなものを広げて、ペンを握り締めていた。

…何か書いてる?

だけど、ペンを持ってるってことは、縛り上げられていた訳じゃないんだ。

客室の中は、殺風景だし、最低限の質素な家具が置いてあるだけだったけど。

ちゃんとカーペットも敷かれているし、椅子とテーブルもある。

…良かった。ナジュ君、元気そうで。

「あ、あの、な、」

ナジュ君、と彼の背中に声をかけようとしたら。

「…何の用です」

僕が声を掛ける前に、ナジュ君の方から口を開いた。

その声はびっくりするほど冷たかった。

それはさながら…彼とまだ出会ったばかりの頃のような。

ナジュ君が…まだ…『殺戮の堕天使』と呼ばれていた頃のような。

勝手に助けに来たことを怒っているのだろうか?

それは悪かったと思うけど、でも僕だって…。命懸けで、ナジュ君を連れ戻そうって…。その一心で、ここまで来たのに。

別に、感動の再会に抱き合いたかった訳じゃない。

だけど…久し振りに会ったのに、ナジュ君に塩対応されてしまって。

思わず、瞼に涙が込み上げてきた…。

…しかし、ナジュ君は。

「急かされても、まだ誰一人習得していませんよ」

…え?

僕らはまだ、何も言っていないのに。

ナジュ君はこちらに背を向けて、珍しく、凄くイライラした口調で言った。

「それとも、また追加の生徒でも連れてきたんですか」

え、えぇ?

「教えてもらって習得するようなものじゃないって、何度言えば分かるんです。いい加減に…」

「いい加減にするのはそっちです」

イライラしたナジュ君の声を遮るように。

イレースさんが、腕を組み、同じくイライラした口調で言い返した。

「教師としての業務を勝手に放棄しておきながら、随分と偉そうですね」

「…え?」

その時初めて、ナジュ君は虚を突かれたように、はっと振り返り。

そして、そこに立っている僕達三人を見つめた。

「な…ナジュ君」

僕は、そっとナジュ君に手を振った。

…会いに来たよ。