神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

「こっちから、ナジュの匂いがする」という、マシュリさんの一言で。

僕達は、マシュリさんの案内でアジト内を歩いていた。

イレースさんは、こんな時でも堂々とした足取りで。

いつも通りイーニシュフェルト魔導学院の廊下を歩く時のように、足早に、すたすたと歩いていた。

凄いなぁ…。あんな堂々と…。

マシュリさんも同じで、僕達の先頭を堂々と歩いていた。

…挙動不審なのは僕だけ。

こう言うと、僕だけが臆病なように聞こえるけど。

実際、僕は自他共に認める臆病な性格なんだけど。

でも、この二人が堂々とし過ぎてるんだよ。

普通、もっと怯えるでしょ?

だってここは、ルーデュニア聖王国じゃないんだよ。

ジャマ王国の、『アメノミコト』のアジトなんだよ?

誰だって足取りが重くもなるよ。

案の定僕達は、ナジュ君のもとに行く途中で、廊下で何人かの『アメノミコト』の構成員とすれ違った。

廊下の向こうから足音がする度、僕は縮み上がる思いだった。

イレースさんに「堂々としていなさい」と言われて、精一杯堂々としているつもりなんだけど。

もしかして「お前達、見慣れない顔だな」とか言われるんじゃないかって。

廊下で人とすれ違う度に、心臓がばくばくと鳴っていた。

だけど幸いなことに、僕らは誰にも声をかけられなかった。

これは幸運なことだった。

令月さんとすぐりさんは、以前『アメノミコト』では構成員同士の馴れ合いはしないと言っていた。

多分、そのお陰だろう。

すれ違っても、挨拶どころか、こちらをちらりと一瞥することもなかった。

安心したけど、ここまで徹底的に存在をスルーされると、何だか寂しい。

同じ組織の仲間同士なんだから、挨拶くらいすれば良いのに…と思ってしまって。

ルーデュニア聖王国のイーニシュフェルト魔導学院や聖魔騎士団だったら、絶対に有り得ないことだ。

…こんな冷たくて寂しいところに、ナジュ君を置いておくことは出来ない。

誰にも言わないし、本人もあまり自覚していないようだけど…ナジュ君って、結構寂しがり屋だから。

こんな寂しいところにいちゃいけない。…絶対に連れて帰ろう。

僕は再度、強く心にそう誓った。

…それで。

「…マシュリさん。ナジュ君は何処に…?」

「ふんふん…。…段々近づいてる。あともう少し」

マシュリさんは鼻をぴくぴくとさせて、ナジュ君の場所に案内してくれた。

防空壕の隠し通路を歩いていた時も思ったけど、マシュリさんが一緒に来てくれたのは、本当に有り難いことだった。

僕一人だったら、今頃とっくに迷子になっていたに違いない。

でもそれだけに、マシュリさんのいない二組のペアが。

学院長先生と羽久さんペア、それからジュリスさんとベリクリーデさんペアのことが心配だった。

あの二組は果たして、このアジトに辿り着けたのだろうか?

令月さんとすぐりさんは見つけただろうか。…『アメノミコト』の構成員に見つかったりしてないだろうか?

無事だと良いんだけど…。

湧き上がる不安を、僕は必死に堪えながら歩いた。

「マシュリさん、あの…」

「見つけた。この先だ」

マシュリさんが立ち止まり、廊下の角部屋を指差した。

…えっ、ここ?

何だか…ちょっと、意外だった。