―――――…一方。

僕とイレースさん、そしてマシュリさんの三人は…。

「ほ、本当にここなの…?」

「えぇ。地図によると、ここですね」

イレースさんは、淡々と頷き。

「ふんふん…。…本当だ。ここ、かなり深いみたいだね」

マシュリさんが、ふんふんと匂いを嗅いで確かめてくれた。

「僅かだけど、人の匂いもする。つい最近使われたみたい」

「そうですか。では、ここは現役の隠し通路ということですね」

そ、そうなんだ…。

エニスさんがくれた地図に書いてあった、ジャマ王国の各地から繋がる、『アメノミコト』のアジトの隠し通路。

その一つが、今、僕達の目の前にある。

人里離れた山の中にある、洞穴のような場所だ。

いや…洞穴と言うか…。

「ここ…。ぼ、防空壕…?」

「…の、ようですね」

「…」

だよね?

さながらここは、戦時中に使われた縦穴式の防空壕のよう。

上から土や葉っぱを被せて、カモフラージュしているけれど。

それらを退かして中を覗き込むと、くら〜いじめじめとした空間が、先に続いていた。

…うわぁ…。

「な…な、なんか、出てきそうだね…」

思わず僕は、素直な感想を口にしてしまった。

しかし、イレースさんは。

「出てくる?…あぁ、まぁタヌキやモグラくらいは住み着いてるかもしれませんが。それくらい、出てきても別に問題ないでしょう」

違うんだよ、イレースさん。

タヌキとかモグラのことじゃなくて。…あの…。

更に、マシュリさんも何を思ったか。

「大丈夫。獣の匂いはしないから。タヌキもモグラもいないよ」

洞穴の匂いを嗅いで、そう教えてくれた。

うん、ありがとう。

でもね、僕が心配してるのはそういうことじゃないんだ。

「さっさと行きますよ」

「そうだね」

「あっ…ちょっ…まっ…!」

イレースさんは少しも怯えることなく、さっさと洞穴に潜り込んだ。

マシュリさんも、それに続く。

…えぇぇ…。…本当にここ、行くの…?

何か出てきたらどうすれば良いんだ…と、怯えたが。

「…!」

僕は大切なことを思い出して、ハッとした。

そうだ。僕はこれから、ナジュ君達を助けに行くんだ。

ナジュ君はきっと…今頃、僕以上に怖い思いをしているに違いない。

だったら、僕が怯えて良いはずがない。

…この暗い洞穴の先にナジュ君がいると思えば、恐怖なんて自然と消えてしまった。

「…今行くからね、ナジュ君」

僕は意を決して、洞穴に潜り込んだ。