神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

…数日後。

学院長室の前の廊下に設置した笹には、たくさんの短冊がぶら下がっていた。

「見て見てー、羽久!増えてる!」

それを見て、誰よりも喜んでいるのが、このシルナである。

「そうか…。良かったな」

はいはい。

「あ、チョコも減ってる!補充しておかないと…」

短冊に願い事を書くついでに、チョコをもらっていく生徒も多いらしく。

シルナが設置したチョコ入れは、既に半分を切っていた。

シルナは、そこにいそいそとチョコレートを補充していた。

…ったく…。

「意外とみんな、置いとくと書いてくれるもんだな…」

俺は、笹に吊るされた短冊を試しに一枚、手に取ってみる。

『成績が上がりますように』とか、『テストで良い点を取れますように』とか。

勉強熱心な生徒がいる一方で。

「ふゃっ!」

シルナが、思わず奇声をあげていた。

「どうしたよ?」

「こ、これ…」

震える手で、シルナが指差した短冊には。

『〇〇君が振り向いてくれますように』という、非常に甘酸っぱい願い事が書き記されていた。

青春だなぁ。

男の子の名前を〇〇として、内緒にしてるところが可愛らしいな。

「誰のことだろうね…?」

「さぁ…。甘酸っぱくて良いんじゃないのか?」

シルナはそういうの、まったく無縁な上に耐性もないから、どぎまぎしているが。

これもまた、年相応で良いんじゃないか?

イレースが見たら、顔をしかめそうだな。

そもそもイレースは、この学院長室の前に飾られた笹を見て、舌打ちをしていたくらいだからな。

こんなもの飾りやがって、と。

まぁ、このくらいは許してやってくれよ。

「それから、他には…。…あ、羽久。見てこれ」

「ん?」

シルナが見つめる短冊に書かれていた願い事は。

『プラチナ猫缶を山盛り食べたい』

…だってさ。

「…これマシュリだろ?」

「多分…だろうね」

一人だけ人間の願い事じゃねーもん。

普段マシュリ、いろりには、ブロンズ猫缶か、シルバー猫缶を餌として与えている。

時折ゴールド猫缶が安く手に入ったら、その時はゴールドもあげるけど…。

プラチナ猫缶はお高くて、なかなか手が出ない。

イレースに言わせれば、猫の餌なんて必要経費のうちに入っていない。

ペットショップで売られている猫餌の中で一番安い、激安特価のお徳用猫カリカリで充分だ、と言っているが。

生徒とマシュリの強硬な反対により、現在の餌のグレードに保たれている。

でも本音を言えば、やっぱりプラチナ猫缶を食べたいらしいな。

まぁ、うん。願い事は何でも自由だよ。

ただ、「猫缶を食べたい」なんて願い事を見て、生徒達がぎょっとしなければ良いのだが。