神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

それは思考停止だ。

自分を犠牲にすることで、仲間を助ける…。

聞こえは良いだろう。お前はそれで満足だろう。

だけど、助けられた仲間がどう思うか。

自分の命より大切な人が、自分を助ける為に犠牲になったと知れば。

その後一生、後悔し続けることになる。

一生、心の底から笑うことは出来なくなる。

お前は大切な仲間に、そんな重荷を背負わせるつもりなのか。

「甘えるな。それから…逃げるな」

「…逃げる?何処が逃げてるのさ?」

囚われの身になっているせいで、自分が逃げているという自覚はないらしい。

だが、お前は逃げている。

考えることから。抵抗することから。

そして、自分の本当の気持ちから。

「お前だって本当は、黒月令月と一緒に、ルーデュニア聖王国に帰りたいんだろ」

「それは…」

…やっぱり。

目を泳がせていることが、何よりの証拠だな。

「だったら、その方法を考えろよ。仕方ないからって自分に言い訳して、目を逸らすんじゃねぇ」

「だって…俺は…『アメノミコト』の暗殺者で…」

「それは昔の話だろ。今のお前は違う。ただの花曇すぐりだ」

ただの…イーニシュフェルト魔導学院の生徒。そして子供だ。

「お前が黒月令月を大事に思うように、自分のことも大事にしてやれよ」

これまでもう散々、自分の身体も、心も、充分傷ついてきただろ。

だから…今度は、自分の為に生きてやれよ。

「俺に…そんな資格なんてあるはずないよ」

「資格だの権利だの、そんなものは天の神様が決めることだ。自分で自分を枠に嵌めるな」

「…だけど…」

「四の五のうるせぇ。お前は子供なんだから、年長者の言うことを素直に聞いておけ」

「…ジュリスがおーぼー…」

ベリクリーデ、ちょっと黙ってなさい。

これは大人の特権というものだ。

「自分の心に嘘ついてんじゃねぇよ。黒月令月と一緒に帰りたいって言え」

「…」

「自分も光の下で生きていきたいって。それを助けてくれる仲間が、今のお前にはいるんだ」

俺は鉄格子の隙間から、花曇すぐりに手を伸ばした。

ほんと、馬鹿なやつ。

逆の立場だったら、お前だって同じことをするだろうに。

「行くぞ。…今度こそ、光の下で生きていく為に」

「…」

「言っとくが、嫌だって言っても連れて行くからな」

「…やっぱり、ジュリスがおーぼー…」

だまらっしゃい。

「はー、もう…仕方ない人達だなー…」

花曇すぐりは、呆れたような溜め息をついた。

「まー…でも、君達は前からそーだったっけ…」

「あぁ、そうだ。だから諦めろ」

諦めて、大人しく助けられろ。

俺に気絶させられないうちにな。

「…分かったよ。行くよ」

「本当だな?」

「…うん。俺だって帰りたいもん。…あの場所に」

…そうか。

そう思える場所が出来て良かったな。

「でも、『八千代』も一緒じゃないと帰れない」

「分かってる。お前の相棒は、今頃他の仲間達が助けてるはずだよ」

「そっか。じゃー安心だね」

その通り。

だからお前は安心して、俺の手を取れば良い。



花曇すぐりは手を伸ばして、俺の手をしっかりと握り返した。