神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

「俺が大人しくここにいれば、『八千代』はルーデュニア聖王国に帰らせてくれるそうだ」

と、花曇すぐりは言った。

「だからさー…。…俺はここから出られないの。分かる?」

「…分かんねぇよ」

自分を犠牲にして、仲間を助けようとするその意志は立派だ。

お前だってまだ子供だろうに。

本当は…自分だって助かりたいだろうに。

それなのに…こいつは、健気にも。

自分が囚われの身になることで、自分の相棒を助けようとしている。

その為に、本当はすぐにでも出られるはずの鉄格子の中に、自ら閉じ込められている。

こんな健気な話があるかよ?

「お前、信じてるのか?本気で信じてるのか?お前が大人しく囚われの身になったからって、『アメノミコト』がお前の相棒を帰してくれる保証はないんだぞ」

「分かってるよ。あいつらは嘘つき集団だもんねー」

花曇すぐりは頬杖をついて、間延びした口調で答えた。

悟りきっているような、諦めきった表情にも見えた。

「だけど俺が逃げたら、『八千代』は確実に殺されるから」

「…」

「それだけははっきりしてるから。あいつら、そーゆーことに関しては嘘つかないから。だから、俺は逃げない。俺のせいで『八千代』が追われることになったら悲惨じゃん?」

「…馬鹿野郎」

その『八千代』の為にお前が苦しめられることになったら、それもまた、同じように悲惨だよ。

「お前の相棒は、お前が犠牲になって自分だけ助かることを望んでると思うのか?」

「ん?思ってないよ?」

思ってないのかよ。

そこまで分かってるなら、なんで…。

「『八千代』がどう思ってるかは関係ない。でも、どちらかしかルーデュニア聖王国に帰れないなら、『八千代』が帰った方が良いに決まってるからねー」

「…なんで、そう思うんだ?」

「…俺の方が汚いからに決まってんじゃん」

汚い、だと?

「『八千代』は暗殺者だったけど、あの人は命じられてそうしてただけだ。俺みたいに、暗殺の仕事を楽しんでた訳じゃない」

「そんなこと…」

「『八千代』はまともな人間なんだよ。俺みたいなサイコパスと違ってね。だから、『八千代』は光の下で生きていく資格がある」

花曇すぐりは、本気でそう思っているようだった。

本当は、自分だって助かりたくて堪らないだろうに。

自分だって…光の下で生きていきたいだろうに。

「だから、俺がここに残る。で、『八千代』はルーデュニア聖王国に帰る。それが一番良い方法でしょ?」

…その思いで、ずっとこの地下室に閉じ込められていたのか。

「その様子だと、多分俺と『八千代』を助けに来てくれたんだろーね、君達は」

「…あぁ」

「ご苦労なことだねー。学院長せんせーとかも来てるの?」

「来てるよ。…別行動中だけどな」

羽久とイレースと、それから天音もいるぞ。

お前を…お前達を連れ戻す為にな。

「そっか。じゃー、『八千代』だけ連れて帰ってよ。俺は残るからさ」

「…」

「『八千代』によろしく伝えておいて」

…この、馬鹿。

そういうことは、自分の口で伝えろ。

ちゃんと会って、二人の意思を確かめてから決めるもんだ。

「お前…甘えてんじゃねぇぞ」

相手は子供だ。それは分かっている。

分かっているが、俺はそう言わずにはいられなかった。