神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

そこは薄暗く、天井が低く、湿気が立ち込めて、非常に居心地が悪かった。

実に陰気な場所だ。

これぞ暗殺者組織のアジト、って感じだな。

本当に…こんなところに?

じめじめじっとりしていて、1日どころか、1時間いるだけで気分が悪くなりそうだが。

「おい、ベリクリーデ…。お前な、もうちょっと慎重に…」

「ほぇ?」

きょとん、と振り向くベリクリーデ。

「ここは『アメノミコト』のアジトなんだぞ。分かってるか?」

「うん」

絶対分かってないだろ。

「だったら、もっと警戒しろ。いつ、『アメノミコト』の暗殺者と鉢合わせしてもおかしくな、」

「…そこにいるのは誰だ?」

ほら、言わんこっちゃない!

と、思わず大声で怒鳴りかけた。

振り向くと、そこにはこちらに機関銃を向けた、黒装束の兵隊みたいな人が立っていた。

どうやら、アジトの入り口を守る警備兵?のような役割を担っているらしい。

…そりゃいるよな。当然。

「何者だ?」

「え…えーと…」

どうする?万事休すか?

まさか、真正面から敵が侵入してくるとは思ってないだろうな。

潜入開始10分足らずなのに、(ベリクリーデのせいで)絶賛大ピンチを迎えた俺。

強がらずに、やっぱりマシュリについてきてもらうべきだったのでは?

だって、ベリクリーデがこんなに向こう見ずな行動を取るとは思わなくて。

俺達のせいで、潜入作戦そのものが瓦解したら。

シルナ・エインリーに、どう申し開きすれば良いのか。

しかし、焦りまくる俺に反して。

ベリクリーデは、ちっとも慌てている様子はなく。

「私、ベリクリーデって言うの」

あろうことか、見張り番に自己紹介した。

おい。何故真っ先に身分を明かす。

「は…?ベリクリーデ…?」

ほら。見張り番も困ってる。

「そう。こっちのかっこいい人は、ジュリスって言うんだよ」

勝手に俺の名前まで教えちゃった。

「はぁ…ジュリス…さん?」

「うん。ジュリスだよ。かっこ良いでしょ」

…何故、ちょっと得意げ?

「…はっ、それで、お前達は何者だ?」

突然侵入者に自己紹介をされて、面食らっていた見張り番だが。

我に返って、改めて機関銃をこちらに向け、警戒心をあらわにした。

ピンチ、再び。

「だから、私はベリクリーデだよ。こっちはジュリス」

名前を聞いてるんじゃないんだって。

「何をしに来た?」

「何をしに?…うーんと…会いたい人がいるの」

ちょっ…馬鹿正直に答える奴があるか。

「会っても良い?会わせてくれる?」

「会いたい人…?…誰だ?」

「とっても大事な人なの」

「…」

見張り番は、困り顔で困惑していた。

何なんだこいつら、って絶対思ってるだろうな。

大丈夫。俺も思ってるから。ベリクリーデに。

何なんだこいつ、って。

「ここ、通してくれないかな」

「は、はぁ…。えぇと…来訪の予約は?」

「よやく?」

「事前に連絡はしているのか、と聞いているんだ」

「…れんらく…。…してない」

当たり前だろ。

潜入するのに、事前に「潜入しますよ」って教える奴があるか。