神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

すると、天音がおずおずと手を挙げて、エニスに尋ねた。

「あの…。傭兵組織って、一体何をしてるの…?」

確かに。それ、俺も聞きたかった。

傭兵…。…用心棒みたいなことをするのが仕事なんだろうか。

それとも、まさか国外の戦争に加担したり…?

「敵対組織の斥候任務や、要人の暗殺任務などを請け負っています」

と、エニスはきっぱり答えた。

「…それだけ?」

「それだけではありません。要人の警護や、武器、美術品、麻薬などの密輸入、密輸出も行っています」

「…」

…それって。

「『アメノミコト』と同じじゃないですか」

俺が思ったことを、イレースがずばりと口にした。

だよな?

「違うと言いながら、やってることは同じとは。そういうのを、目糞鼻糞を笑うと言うんです」

イレース。言いたいことは分かるんだが。

女の子が、人前で糞とか言わないでくれ。な?

しかし、エニスは。

「違います」

それだけは認めないとばかりに、きっぱりと否定した。

「『八岐の大蛇』は、『アメノミコト』とは違います」

「何が違うんです。名前が違うだけじゃないですか」

「違います。悪であることを自覚さえしていない『アメノミコト』と違って、私達は自分のやっていることが非合法な行為だと知っています」

「…」

エニスの目は真剣そのもので。

強い意思を持った口調で、そう説明した。

「それに、『アメノミコト』は子供を拐ったり買ったりして、その子供を強制的に暗殺者に仕立て上げていますが、『八岐の大蛇』はそんなことはしません」

「…そう、なのか?」

「『八岐の大蛇』は傭兵組織です。所属している構成員は全員、充分な報酬を受けて任務を請け負っているのです」

あ…そうか。傭兵組織だって言ってたもんな。

『アメノミコト』では、令月とすぐりもそうだったが、所属している暗殺者に自由はなかった。

任務をこなしても、報酬がもらえる訳ではなかった。

ただただ恐怖に縛られ、命じられて、強制的に人を殺していた…。

だけど、『八岐の大蛇』は違う。

やっている仕事は同じでも、それは他人に強制されて無理矢理やらされている訳ではなく。

ちゃんと報酬を受け取って、その代わりに任務を請け負っている。

…これは大きな違いだ。

「『八岐の大蛇』は、構成員に決して任務を強要することはありません。危険な任務もありますが、その時は拒否することも出来ますし、任務に成功すれば、それ相応の報酬も与えられます」

「…」

「やめたくなれば、やめることも出来ます。休みたければ休めます。任務に失敗しても、報酬はもらえないけれど、役立たずだと罵られて、処分されることはありません」

「…」

「私達は『アメノミコト』とは違う。人の命を虫けらのように扱う、あの薄汚い暗殺組織とは違うんです」

…成程。

それは、確かに…『アメノミコト』とは大違い、だな。

やってる仕事が同じなんだから一緒じゃん、と言ってしまった自分の浅はかさを実感した。

同じじゃない。

『アメノミコト』は人間を人間扱いしてなかったが、『八岐の大蛇』は人間を人間として扱っている。

…これは大事なことだよ。とても。