神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

知らない人についていっちゃ駄目、って。小学生の時習わなかったのか。俺は。

…まぁ、習わなかったんだけど。

でも、こんなに間抜けに敵の罠に引っかかるなんて。

教師失格じゃないか。俺は。

それじゃあこのホステルにも、もしかしてこの女性の仲間が…。

…しかし。

「大丈夫だよ。怖い人じゃない」

「え…」

「怖いことは何もしないよ」

ベリクリーデは相変わらず、確信を持って言った。

そ…そうなのか?

俺達のことも、『アメノミコト』のことも知っていて。

しかも、こんなところに連れてこられた時点で…充分に怖いけどな。

「その通りです。私は、あなた方に危害を加えるつもりはありません。『アメノミコト』に近寄ってはいけないという忠告も、嘘ではありません」

と、その女性が言った。

「…どういうことだよ?」

俺は警戒心を剥き出しにして聞き返した。

いざとなったら、例え手荒な方法を使っても、ここから脱出するつもりだった。

捕まった令月達を助けに来たのに、俺達が捕まってどうするんだよ。

ミイラ取りじゃないんだから。

「あんた、まさか『アメノミコト』の斥候か何か…」

「違います。…あのような薄汚い暗殺者集団と一緒にしないでください」

…それはごめん。

「それなら、あなたは何者なんです。何故私達を知ってるんですか」

こんな時でも、イレースは冷静に質問した。

「…私の名は、エニスと言います」

俺達をここに連れて来た女性が、そう名乗った。

エニス…さん。

そんな名前だったんだな。

「私は『アメノミコト』ではありません。私は…『八岐の大蛇』から来ました」

…えっと?

何だか、聞き覚えのない言葉が出てきた。

「『八岐の大蛇』…?」

何だそれは。

「…神話の怪物だな」

と、ジュリス。

あぁ、そうだ。それだ。

確か、頭と尻尾が八つもあるヘビなんだっけ。

それで、八岐の大蛇って名前で…。

「『八岐の大蛇』は、ジャマ王国に出来た、傭兵組織の名前なんです」

そう、エニスが説明してくれた。

「傭兵組織…?」

「そうです」

「…じゃあ、あんたも傭兵なのか?」

「はい。そうです」

傭兵組織…。…傭兵。

っていうことは、この人は…強制的に従わされている『アメノミコト』の暗殺者と違って。

『八岐の大蛇』という組織で、金で雇われてる傭兵ってこと…?

「…シルナ、聞いたことあるか?」

俺は聞いたことないぞ。『八岐の大蛇』なんて。

ジャマ王国と言えば『アメノミコト』一強、だと思い込んでいた。

「え?そ…そうだね。私も初耳だよ…」

ほら。シルナも知らないって。

一体、いつの間にそんな組織が出来たんだ?

ジャマ王国出身の令月とすぐりも、一度も『八岐の大蛇』なんて組織の名前を口にしたことはなかったはずだ。

すると、エニスは。

「無理もありません。『八岐の大蛇』はつい最近になって台頭し始めた組織ですから」

「…そうなのか?」

「はい。これまではずっと、あの忌まわしい『アメノミコト』が、ジャマ王国の裏社会を実質支配してきた…」

「…」

「ですが、今は違う。私達『八岐の大蛇』は、『アメノミコト』の独裁を許さない。私達は、自分が人間であることを忘れていない」

…。

…俺、『八岐の大蛇』のことなんて初耳で、全然知らないけど。

だけど…このエニスという女性が、『アメノミコト』を心底憎んでいる、というこもだけは伝わってきた。