神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

ここ、大丈夫だよな?

何か罠が仕掛けられてるんじゃないかと、周囲をきょろきょろと見渡したが。

…怪しいものはなさそう。多分。

ジャマ王国の中、ってだけで充分怪しいけど。

だけどベリクリーデが言うように、この若い女性は信用出来る…。…かな?

「あの…君は…」

ホステルに入ってから、シルナが、おずおずとその女性に声をかけた。

すると。

「あの近くには暗殺組織のアジトがあるんです。近寄ったら危ないですよ」

と、女性が教えてくれた。

いや、それは…知ってるんだけど。

それを分かってて行ったんだけど。

「ご存知ですか?『アメノミコト』っていう組織が…」

「あ、うん…。それは…知ってる、けど」

「知ってて行ったんですか?」

「…」

…うん。

「…物珍しいのかもしれませんけど、あの組織は本当に危ないんです。物見遊山で近づいてはいけませんよ」

「あ、そ…う、だね。うん。ありがとう…」

この女性、本当に親切心から忠告してくれたんだろうか?

あの付近は危ないから、近寄るなと…。

「あなた達は、旅行者なんですか?」

「…えっと…」

「ジャマ王国に?…珍しいですね。あまり有名な観光地はないはずですけど…」

「…えぇと…」

「…一体どうしてここに?」

「…」

とうとう返答に困って、黙り込んでしまうシルナ。

…俺も困ってる。

なんて答えれば良いのか…。まさか、その危険な暗殺組織にこっそり潜入しようとしてました、なんて言えず。

本当に、この人を信用して良いのかも分からず。

「あなたに説明する義理はないはずです」

返答に困った、俺とシルナの代わりに。

何でもはっきりきっぱり主張する主義のイレースが、いつも通り容赦なく答えた。

なんともつっけんどんな対応だが。

この場合、これくらいはっきり言った方が良いのかもしれない。

無関係の彼女を巻き込まない為にも。

「私達が何処で何をしようと、それは私達の勝手では?」

「…そうですけど。でも、『アメノミコト』は本当に恐ろしいんですよ」

…知ってる。

だからこそ、仲間をその恐ろしい組織から救い出しに来たんだ。

「迂闊に関わらない方が良いです。彼らは…」

「それが余計なお世話だって言ってんだよ」

ジュリスもまた、敢えてつっけんどんな態度を取った。

ジュリスの性格からして、やはり、善意から俺達に忠告してくれたこの女性を巻き込まないよう。

敢えて失礼な口調で、突き放そうとしているのだ。

「俺等には俺等の事情があるんだ。口挟まないでもらえるか」

さすがにここまで言えば、引き下がってくれる。

と、思いきや。

「もしかしてあなた達…。『アメノミコト』に暗殺を依頼する為に来たんじゃありませんよね?」

俺達のあまりに頑なな態度が、むしろ、余計に疑いを強めてしまったらしく。

疑わしげに、そう聞かれてしまった。

…うぐ。

そ…そういう訳では、ないんだけど。

「なんという…愚かな真似を」

俺達の沈黙を、肯定の意と捉えたらしく。

彼女は眉間に皺を寄せて、更に忠告を繰り返した。

「絶対に駄目です。どんな理由があっても…『アメノミコト』に暗殺を依頼するなんて」

「いや…あの…別に、そんなことは…」

「あの冷酷無比な暗殺者組織が、暗殺者を育てる為にどんなことをしているか…。どんなに残虐なことをしているか知っていたら、『アメノミコト』と関わり合いになろうとは思わないはずです」

「だから…その…。…それも分かってるんだけど…」

シルナ、しどろもどろ。

関わり合いに…なりたくなくても、既に俺達、もう関わっちゃってるんだよな。

時既に遅し。