神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

…マシュリの背中、上空にて。

マシュリは口の中からぺっ、とシルナを吐き出し。

空中に放り投げて、自分の背中に落とした。

「ぶへっ!」

放り出されたシルナが、マシュリの背中に激突。

「いたぁぁぁ…」

「…お前が素直に乗らないからだよ」

「もぉぉ…。みんな乱暴なことをす、ふひぇぇぇぇ!?」

マシュリの背中から地上を見下ろし、恐ろしくなったのか。

シルナは奇怪な悲鳴をあげて、俺にしがみついた。

ちょ、何で俺にくっつくんだよ。

「足、足、足から力がぁぁ…」

がくがくがく、と震え、ビビりまくるシルナ。

…情けない奴だよ。

この調子じゃ、ジャマ王国に着いても、腰が抜けて立てないのでは?

とはいえ、俺もシルナの気持ちが分からなくはない。

何だろう。上手い例えが見つからないけど。

雲の上で、超長いジェットコースターに乗ってるみたいな気分。

しかも、安全装置はない。

もしここから落ちたら、地面に叩きつけられて、間違いなく死ぬ。

まぁ、仮に落っこちたとしても、マシュリが拾ってくれるとは思うが。

凄い速度なんだもん。風を突っ切る音が凄くて、ほとんど声が聞こえないくらい。

シルナじゃなくても、怖いと思うのは当然である。

俺だって、令月達を助けに行くという使命がなかったら、こんな絶叫マシンに乗るのは御免だ。

これにはさすがに、我が校で一番肝の据わったイレースも怯えているかと思ったが…。

「風除けが欲しいですね」

怖がる様子はまったくなく。

むしろ不機嫌そうな顔をして、髪の毛がバサバサとたなびくのを手で押さえていた。

すげぇ…。

一方、その横に乗っている天音は。

「ナジュ君のため、ナジュ君のため、ナジュ君のため…」

マシュリの背中にへばりつきながら、必死に自分にそう言い聞かせていた。

その顔は、恐怖に引き攣っていた。

それでも悲鳴は上げないし、弱音も吐かない。

…天音、お前は偉いよ。

更に、その後ろで。

「そーらーをこーえてー♪らららじゃーまーおーこくー♪」

空の上だろうと関係なく、楽しそうに大声で歌っているベリクリーデ。

全然怖がってる様子はない。むしろ、無邪気にジェットコースターを楽しんでいらっしゃる。

「ベリクリーデ…。お前、緊張感がないにも程があるだろ。歌ってんじゃねぇ」

「ゆくぞー♪ジュリスー♪」

「なんで俺なんだよ…」

…この二人は、心配しなくても大丈夫だな。

まぁ、余裕があるのは良いことだ。…今の間だけでも。

余裕がまったくなくて、心配なのは。

「がくがくがく…ぶるぶるぶる…」

「…シルナ…」

「がくぶるがくぶる…」

…俺も正直、そんなに高いところ、得意じゃないんだけどさ。

シルナがあんまり派手にビビってるから、逆に俺はしらけちゃって…怖くないって言うか…。

ところでこいつ、ジャマ王国に着いた後、ちゃんと戦力になるのか?

むしろ邪魔なんじゃね?

「は…は、羽久が、私に、し、し、失礼なことを、かっ、考えてる気がする〜っ」

そうか…。そんなこと言ってられるなら、大丈夫そうだな。

「怖いよ〜っ!早く着いてー!」

という、シルナの切実な訴えに。

「そう?じゃあ、もう少し速くするね」

マシュリは素直に答えた。

「えっ?ちょ、マシュリく、」

「みんな、しっかり掴まっててね」

「ぷぎゃぁぁぁ!?」

シルナの悲鳴をBGMに。

更に加速する、爆速マシュリタクシーであった。