神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

乗って…って言われても。

マシュリの背中に乗るなんて、そんなこと…。

という、俺の当然の躊躇いをよそに。

「わーい。面白そう」

と、真っ先にマシュリの背中に飛び乗ったのは、恐れ知らずのベリクリーデだった。

おいおい。少しは怖がるとか、そういうことはないのか。

「ざらざらしてるね」

あろうことかベリクリーデは、マシュリの鱗を手のひらで撫でていた。

…凄い度胸だな。

それから、度胸なら我が学院イチのイレースが。

続いて、マシュリの背中に乗った。

「ふむ。こんなものですか」

「マジか…。イレース、怖くないのか?」

「何がです?隣の国までタダ乗り出来る便利なタクシーですよ。利用しない手はありません」

完全に、マシュリをタクシー扱い。

タダ乗りって、お前…。

…マシュリ。これが終わったら、お前にプラチナ猫缶買ってやるからな。

「…まぁ、手段を選んでる場合じゃないもんな」

「ナジュ君…今、迎えに行くからね」

続けて、ジュリスと天音がタクシー、いやマシュリの背に乗った。

マジか…。みんな、覚悟を決めてるな。

じゃあ…俺が尻込みしてる訳にはいかないな。

「よし…。それじゃマシュリ、失礼」

「どうぞ」

俺も、マシュリの背中に乗らせてもらった。

…おぉ。

竜の背中に乗るなんて。人生初めての経験である。

もっと、竜の鱗がゴツゴツして乗り心地が悪いかと思ったが。

意外とそうでもなくて、座っても、触っても、全然痛くない。

快適だぞ。このマシュリタクシー。

「見てー、ジュリス。私、竜の背中に乗ってる」

「はいはい。頼むから手を離すなよ」

ベリクリーデとジュリスは、既にくつろいだ様子でさえある。

…言っとくが、神竜バハムートって本来は。

冥界で、めちゃくちゃ神聖な種族なんだからな。

背中に乗って、ましてやタクシー代わりにするなんて、とんでもないことだ。

マシュリが優しいから、許してくれてるだけで。

良い子は真似しちゃ駄目だぞ。

「よし…。それじゃマシュリ、早速…」

「あ、あ、あの〜…」

「ん?」

くるりと後ろを向くと。

シルナが一人、地面に立ってこちらを見上げていた。

…何やってんの?こいつ。

「早く乗れよ、シルナ」

そろそろ出発するぞ。

しかし、シルナは忙しなく目をきょろきょろさせるばかりで、なかなかマシュリタクシーに乗ろうとしない。

何やってんだ?

「早くしなさい。何をモタモタしてるんです」

苛立つイレース。ひぇっ。

おい。出発前からイレースを怒らせるなって。

「だ、だって…だって」

「…何だよ?」

「そ、空を飛ぶって…。その、高いところに行くんだよね…?」

「…」

「…ぷるぷる」

高所恐怖症学院長、シルナ。

…こいつは。まったく。