神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

「何が駄目なんですか?いい加減、『アメノミコト』も表舞台から降りる、良い機会なのでは?」

古いものは淘汰され、新しいものに変えられる。

『アメノミコト』も、大きな転換期を迎えているということです。

潔く、後のことは優良企業の『八岐の大蛇』に譲って。

鬼頭夜陰は精々、報復に怯えながら、のんびりと隠居生活を楽しむのも良いのでは?

「そういう訳にはいきません。『アメノミコト』は、ジャマ王国裏社会で築いてきた立場がありますから」

「そんな古いものに固執してるから、ぽっと出の傭兵組織にお株を乗っ取られるんですよ」

どうせ僕は殺されないので、言いたい放題言わせてもらいますよ。

「どうしても消えたくないのなら、『アメノミコト』も社内改革をしたらどうですか?」

所属している暗殺者に、ちゃんと充分なお給料とお休みをあげて。

人間らしく扱って、コードネームなんかじゃなくて、ちゃんと本当の名前で呼んであげて。

クローンなんて作るのは一切やめて、それから人身売買や、子供の洗脳教育やら。

そういう後ろ暗いことをぜーんぶやめて、そして今の鬼頭夜陰は引退させて。

新しい、民主的なリーダーを決める。

ここまですれば、社員の皆さんもついてきてくれるのでは?

まぁ、それでも泥舟であることに変わりはありませんけど。

僕も一応、教師の端くれとして、人にモノを教える立場になって、それで学んだ。

人間を教え導くには、鞭だけではなく、飴も必要だ。

巧みに飴と鞭を交互に与えてこそ、人は大成する。

とはいえ僕は基本、飴しか与えてませんけどね。

ほら、僕、褒められて伸びるタイプなので。

人のことは褒めてあげたいんです。

その代わり、イレースさんは鞭しか与えてないので、それでイーブンってことで。

とにかく、『アメノミコト』が旧来のやり方を続けて、このまま存続していくのは無理だ。

誰だって、任務に失敗して殺される恐怖に怯えながら、人を殺したくはないですからね。

…それなのに、『玉響』さんは頑なだった。

「歴史ある『アメノミコト』が変わる必要はありません」

この人達は、アレですね。

例え泥舟が浸水を始めても、「そんな泥舟は捨てて、新しい船に乗り換えなさい」と忠告されても。

それでも、その崩れた泥舟にしがみついて、ついでにプライドとやらを抱き締めて、そのまま海の底に沈むことを望むんですね。

そういう趣味があるなら、どうぞお好きに、と言いたいところですが。

自分がそれに巻き込まれるとなれば、話は違う。

僕は確かに自殺願望の塊ですが、でも、泥舟に乗って沈むのは御免ですよ。

「とはいえ、『八岐の大蛇』が台頭してきた以上、これまで通りのやり方では限界があることは承知しています。そこで、新たなアプローチを試みることにしました」

「…その新しいアプリとやらが、暗殺者クローンの製作計画ですか」

「そして、あなたです」

…僕?

「読心魔法はとても便利な魔法ですから。扱える者が一人いれば、暗殺任務に非常に役立つ」

「随分と人気者で困りますね」

「あなたが必要なのではありません。読心魔法が必要なんです」

僕の価値は読心魔法だけですか。

「もとより、あなたに読心魔法を使わせるつもりはありません。あなたは元々敵側の人間ですから。あなたの言うことを完全に信用することはない」

無理矢理協力させておいて、酷い言い草ですね。

でも、僕に読心魔法を使わせるつもりがないなら…。

「それなら、何で僕を連れてきたんですか」

「あなたの役目は、読心魔法を使うことではない。『アメノミコト』の暗殺者に、読心魔法を教えることです」

これには、僕も思わず面食らってしまった。

読心魔法を…。…教える?