神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

…八岐の大蛇…と言えば。

「…ヘビじゃないんですか?」

伝説の生き物ですけどね。

頭と尻尾が八つもあるという…。

「そうではなく、そういう名前の組織があるんです」

「あぁ、そうですか…」

「『八岐の大蛇』は、近年、ジャマ王国で台頭してきた傭兵組織です」

傭兵…?

ジャマ王国に、そんなものがあったのか。

「傭兵…ってことは、金で雇われている兵士ですか」

「そうです。『八岐の大蛇』に所属する傭兵は、組織から依頼された仕事を行い、代わりに報酬を受け取って成り立っています」

「成程。…非常に人道的な組織ですね。『アメノミコト』も見習ったらどうですか?」

皮肉満載。

でも、そう言いたくもなりますよ。

『アメノミコト』は、所属する暗殺者の生殺与奪の権を握り、暗殺の仕事を無理矢理行わせ。

失敗すれば当然処分されるし、仮に成功したとしても、充分な報酬も、それどころか休日さえない。

最悪のブラック企業じゃないですか。

しかし、『玉響』さんは僕の皮肉をスルーした。

「『八岐の大蛇』は傭兵組織ではありますが、請け負っている仕事内容は、『アメノミコト』とあまり変わりません。要人の暗殺任務や、他国への潜入捜査…。金次第で、どんな仕事も引き受けます」

「ふーん…」

話が見えてきました。

「つまりあなた方『アメノミコト』は今、組織存続のピンチなんですね」

「そうです」

『玉響』さんは否定しなかった。素直に頷いた。

まぁ、僕にここまで事情を打ち明けている時点で。

隠すつもりはなかったのだろう。一切。

これまでは、何とか理性を保って、クローン製作にも手を出さなかった。

これまでほぼ事業を独占していた『アメノミコト』に、強力なライバルが出現した。

しかもあちらは傭兵組織で、ちゃんと給料も支払われる。

もうそれだけで、『アメノミコト』より優良企業ですね。

これまで一強だった『アメノミコト』に、突然、有力な同業他社が現れ。

ついに、鬼頭夜陰の尻に火がついた。

「あろうことか『八岐の大蛇』は、『アメノミコト』所属の暗殺者を引き抜いて、傭兵として雇っているんです」

「へぇ。良いことじゃないですか」

と、僕は思ったことをそのまま口にした。

本当に良いことですよ。

これまで、恐怖と洗脳によってのみ雇われていた、気の毒な『アメノミコト』の暗殺者が。

『八岐の大蛇』という傭兵組織に拾われ、そこでお給料をもらいながら仕事をするなんて。

誰だって、禿げたおっさん(鬼頭)に偉そうに命令され、任務に失敗すれば殺され、成功しても給料ももらえない、休暇もない、正しく評価もされない最悪な職場より。

ちゃんと自分の価値を評価してくれて、給料も休暇ももらえる、ホワイト企業の『八岐の大蛇』で働きたいと思いますよ。

それでいて、やっている仕事は、どちらの組織も大差ないんでしょう?

仕事内容が同じなら、少しでも福利厚生がしっかりしている会社で働きたい。

そう思うのは当然じゃないですか。人として。

そのまま頑張ってください、『八岐の大蛇』さん。

その調子で『アメノミコト』の暗殺者を、残らず転職させてあげましょうよ。

『アメノミコト』解散。万歳。

そうすれば、もう令月さんとすぐりさんも、『アメノミコト』の影に怯えなくて済む。

僕も、晴れてルーデュニア聖王国に帰れる。

おぉ、誰もが喜ぶ素晴らしい展開じゃないですか。

しかし、『玉響』さんは。

「そうされると困るから、こうしてあなたに協力を持ちかけてるんじゃないですか」

「…」

…折角良い気分になってたのに、興ざめですよ。