神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

覚えているだろうか。『玉響』のことを。

俺は覚えている。いつだって、一秒だって忘れたことはない。

かつて、俺が『アメノミコト』に所属していた時。

俺と一緒に、学院長シルナ・エインリーを暗殺する為に派遣されてきた…。

俺と同じく『終日組』の暗殺者だった…『玉響』。

本名は知らない。聞かないままに…『玉響』は死んでしまった。

俺が殺したのだ。

今思い出しても、悔しくて、口惜しくて、自分で自分をぶん殴りたくなる。

あの時の俺は、鬼頭夜陰の操り人形だった。

暗殺者としての誇り…なんていう、下らないものを本気で、盲信していた。

そのせいで…俺は、『玉響』をこの手にかけてしまった。

俺の人生で最も後悔していることがあるとすれば、これだ。

『玉響』は学院長せんせーに心を許し、自分の罪を受け入れ、ルーデュニア聖王国に寝返ろうとしていた。

俺はそれを許さず、『玉響』の命を奪ってしまったのだ。

俺の愚かさ故に、彼は死んでしまった。

彼の亡骸は今も、イーニシュフェルト魔導学院の地に埋められている。

俺は確かにあの時、『玉響』を殺した。それは間違いない。

『八千代』も、あの場にいた学院長せんせー達も、確かに見ていた。

それなのに。

今、俺の目の前にいるこの男は。

俺が殺したはずの、『玉響』とまったく同じ顔をしていた。

黒いフードで顔を隠していたのは、これが理由か。

この『偽玉響』は、『八千代』にも会ったのだろうか。

『八千代』は果たして、この『玉響』が偽者であることに気づいているだろうか?

「…ふざけないでよ」

俺は、あんたのことなんて知らないね。

「あんたと同じ顔の人間は知ってる。でも、その人はもうあの世に行った」

「あなたが殺したから、ですか?」

…いちいち、癪に障る言い方をする。

「…そう。俺が殺したから」

認めるよ。

認めたくなくても、紛れもない事実だからね。

俺が『玉響』を殺した。この手で、確かに。

だから、今目の前にいる『玉響』は、間違いなく偽者だ。

死者は生き返ったりしない。

「だから、あんたは偽者だ」

「僕は偽者なんかじゃありませんよ」

「…嘘つかないでくれるかなー」

さすがに腹が立ってきたんだけど?

どうせ、これも鬼頭夜陰の策略なんだろう。

「おおかた、幻覚魔法でも使ってる?それとも整形手術かな」

「…」

本物の『玉響』は、とっくに土の下だけど。

もし『玉響』の写真一つでも残っていれば、どうとでも再現可能だ。

「『玉響』と同じ顔、同じ声をしていれば、俺と『八千代』が動揺すると思った?」

そうだとしたら、それは大正解だよ。

確かに動揺した。最初見た時は…心臓が飛び出るかと思ったよ。

…もう二度と会うことはない、そんなことは出来ないと思ってたから。

一瞬、『玉響』が蘇ったのかと思ってしまったほどだ。

だけど、そんなことは有り得ない。

「どんなに姿形を似せていても、それは偽者だ。紛い物だ。君は『玉響』じゃない」

「…」

「残念だったね。そんな卑怯な真似をしても、俺の心はもう揺らがないよ」

確かに動揺はしたけれど、それは僅かな時間だけ。

今はもう冷静だ。

目の前の『玉響』が、偽者であることを知っているのだから。

…しかし。

「僕が『玉響』じゃないなんて、どうして分かるんですか?」

…は?