神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

大変お花畑な、僕の精神世界だったが…。



「…起きろ」

突然、頭のてっぺんからバシャッ、と冷水をぶち撒けられ。

楽園のような精神世界から、地獄のような現実に引き戻された。

目を覚ますと、そこには、黒子のように顔を隠した拷問官が。

『アメノミコト』の拷問官はこうして、僕に心の中を読まれないよう、顔を隠しているのだ。

相手の目を見ないと読心出来ない、という僕の読心魔法の欠点を知っているから。

…まったく小賢しい人達。

今、凄く良いところだったんですけどね…。

突然起こされて、僕はちょっと不機嫌ですよ。

起きろ、そろそろ今日の拷問の時間だ、ってことだろうか。

「…今度は何ですか?」

と、わざわざ聞くまでもなかった。

さっきから、鼻を焦がすような、鉄の焼ける熱い匂いが漂っているから。

棍棒みたいに太くて長い鉄の棒の先を、真っ赤になるまで充分に熱してから。

それを、僕に向かって振り上げった。

あぁ、成程。

僕は、次の瞬間に襲ってくるであろう激しい痛みに備えた。

ジュッ、と肉が焼ける音がして。

鉄の棒を当ててられた脇腹が、抉れるような痛みを発した。

同時に、肉が焦げたような匂いが漂ってきた。

…まったく、人間炙り肉ですか。

嫌な趣味してますよ。

拷問官は淡々と、もう一度鉄棒を炙り。

真っ赤になったそれを、続けて僕の身体に押し付けてきた。

悲鳴を上げないよう、声を出さないよう、口の中を噛み締めるようにして耐えた。

一般人なら、この時点で泣き叫んで失神してますよ。

「…大したものだな。声の一つもあげないとは」

熟練の拷問官に褒められるとは、身に余る光栄ですね。

「死に慣れてますからね…。例え首を切り落とされても、僕は屈しませんよ」

僕は、拷問官にそう言い返した。

「こんなことを、いつまで続けてても無駄です…。無駄な労力ですよ」

「…」

別に、焼きごてをやめて欲しいから、頼んでる訳じゃないですよ。

本当に無駄だから、そう言ってるんです。

「僕は死にません。そして屈しません。仲間を守る為に…」

「そうか。ならば、やり方を変えよう」

はい?

焼きごてで駄目なら、今度は何ですか。

逆さに吊るしますか。それとも水槽の中に閉じ込めます?

しかし、拷問官が言いたいのはそういうことではなかった。

「いつまでも強情を張る貴様に、頭領様も頭を痛めていらっしゃる」

「はぁ…そうですか。それは光栄ですね…」

あの人の頭痛を誘う為なら、あと何ヶ月、何年だって耐えますよ。

「そこで、やり方を変えることにした」

「今度は何をするんですか?」

「お前には、何もしない」

…え。

「…どういう意味です?」

「黒月令月と、花曇すぐりを知っているな?」

僕は思わず、身体を硬直させてしまった。

これまで一度も、拷問の最中に、あの二人の名前を聞いたことはなかった。

「…当たり前じゃないですか」

仲間なんだから。

「あの二人は、今、『アメノミコト』に戻ってきている」

「…」

予想していたこととは言え、『アメノミコト』の人間の口から、はっきりとそう聞かされると。

…思わず、縛られている拳を強く握り締めた。

…やっぱり、そうだったんですね。