神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

「平気なんかじゃないよ…。あんなにいっぱい怪我して…」

リリスは精神世界の中で、現実の僕の様子を伺っている。

僕が『アメノミコト』の拷問官に拷問を受けていることも、当然知っている。

だからこそ、心配してくれているのだ。

いやぁ、心配してくれる人がいるって、嬉しいですね。

「本当に、大丈夫ですって」

僕、好きな女の子の前では、強がりたいタイプの男の子なので。

余裕綽々とばかりに、微笑んでみせた。

しかし、リリスは。

「…ううん。やっぱり、こんなのおかしいよ」

え。

「なんで、ナジュ君がこんな目に遭わなきゃいけないの?」

「それは…」

「もう頑張らなくて良いよ。一言、分かった、協力します、って言えば、それでもう傷つけられることはないでしょ」

「…」

『アメノミコト』が、何故僕を捕らえ、必死に僕を拷問しているのか。

それは、僕の読心魔法を利用する為だ。

拷問官にも、何度も言われている。

「やめて欲しければ、『アメノミコト』に協力しろ」と。

だから僕が一言、「あなた達に協力します」と言えば。

それで、拷問は終わる。…はず。

相手は、情け無用に暗殺組織ですからね。

僕が素直に頷いたところで、拷問室から出られるとは限らない。

「…分かっているでしょう、リリス。僕は仲間の敵に力を貸したりしませんよ」

『アメノミコト』は、令月さんとすぐりさんを連れ去った。

そんな連中に協力する義理はありません。

「だけど…。それじゃ、ナジュ君はいつまでも苦しみ続けることになるんだよ」

「そうですね」

あまりにも粘り続ける僕に、拷問官の方が先に音を上げるのを待つしかないですね。

こいつにはもう拷問しても無駄だ、と諦めてくれれば。

それで解放してくれないかな。無理ですかね?

「これ以上苦しむことないよ。学院の…仲間達だって、きっと許してくれるよ」

「…」

…そうですね。

多分、僕もそうだと思います。

底無しに優しい人達ですからね。

僕が拷問を受けていると知ったら、「もう良いから、協力すると言え」と言ってくれるでしょう。

…だからこそ。

だからこそ、僕は彼らの優しさに甘える訳にはいかない。

「令月さんとすぐりさんも、今頃、きっと戦ってるはずなんです」

『アメノミコト』の地下拷問室にやって来てから、あの二人の姿を見かける、どころか。

名前すら、聞いたことはありませんが。

それでも今頃、二人共、この国の何処かにいる。

そして、彼らもまた仲間の為に、仲間を守る為に、必死に戦ってるはずなんです。

それに比べたら、僕は、ただ拷問に耐え続けるだけで良いんですよ?

楽なものじゃないですか。

幸い僕は不死身だし、痛みにも慣れている。

何より、これも仲間の為と思えば、耐えられないことはない。

「だから、僕も戦います」

「ナジュ君…」

「大丈夫ですよ、本当に」

これは、強がりで言ってるんじゃない。

…いや、まぁちょっとは強がってますけど。

…リリスに再会したい為に、死にたいが為に、殺してくれる人を求めて各地を放浪していた頃に比べれば。

このくらい…辛いなんて思わない。

「今はこうして、リリスも一緒にいてくれますから。辛いことなんてちっともありません」

「…」

「信じて見守っててください」

「…もう、分かったよ…」

やった。

「ナジュ君のおねだりには弱いんだよなぁ、私…」

「そういうところが大好きですよ、リリス」

「ほらぁ…また、そんな調子の良いことばっかり…」

とか言って、ちょっと照れてるじゃないですか。

いやぁ可愛い。世界一可愛い僕の恋人ですよ。