神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

「さぁさぁ羽久。どら焼きだよ。美味しいよ」

シルナが、生チョコどら焼きを手渡してきた。

手を伸ばしてどら焼きを受け取るだけで、俺の腕は悲鳴をあげていた。

いてぇ。畜生。

「はいっ、ホットチョコレートも美味しいよー」

更にシルナは、大きなマグカップを差し出す。

どら焼きを持っている手とは反対の手を伸ばして、マグカップを受け取ったが

これが重いの何のって。

今の俺には、並々とホットチョコレートが入ったマグカップが、ダンベルみたいに重い。

畜生…。なんて情けない有り様だ。

「うぐっ…。いててて…」

どら焼きを口に運ぶだけで、肩と肘が軋むように痛む。

「どう?美味しいでしょ?」

「うん…。まぁ、うん…そうだな…」

ぶっちゃけ、どら焼きの味よりも、動かしてる腕の痛みの方が強くて。

どら焼きの味、よく分かんねぇや。ごめんなどら焼き。

今度はホットチョコレートを飲もう、と思ったのだが。

痛みのせいで腕が強張って、マグカップを口元に近づけるだけで一苦労。

「…」

そんな、俺の情けない有り様を見て。

さすがにシルナも、何かがおかしいと感じたようで。

「羽久…どうかしたの?」

挙動不審な俺を心配して、そう声をかけてきた。

「生徒の間で流行ってる、新しいダンス…?」

「…そんな訳ないだろ」

俺だって、こうなりたくてなってるんじゃないんだよ。

むしろ、なんでお前は無事なんだよ。

「じゃあ、どうしたの?何だか辛そうだけど…」

辛そうじゃなくて、辛いんだよ。今。

「…筋肉痛だよ」

「えっ?」

悪かったな。情けなくて。

でも、痛いもんは痛いんだ。人間だからな。

「昨日…ツキナと一緒に大根掘りしただろ?そのせいで…」

「あっ…。あー…成程…」

今思い出したかのような口ぶり。

「朝から、身体中あちこちが筋肉痛で…。ここまで来るだけでも大変だったんだぞ。階段とか…」

「そ…そうだったんだ」

「その途中でイレースに会ったんだよ。あっという間に追い抜かれたけどな…」

「あ、それでさっき、イレースちゃんが『あなたは無事なんですね』って言ったんだね」

そうだよ。

「シルナ、お前はなんともないのか?」

「え?うん。…なんともないね」

ぐるぐる、と腕を動かすシルナ。

強がったり、虚勢を張っている様子はまったくない。

マジかよ。

「一晩ゆっくり寝て、今日はもう元気いっぱいだよ!」

「…畜生…。…何でだ…?」

同じ作業を、同じ時間だけしていたはずなのに。

何故シルナは元気で、俺はこんなに重症なのか。

納得行かねぇ。

筋肉痛は運動不足の人間がなる、とよく言われるが。

俺の運動不足は認めるが、でも俺以上に、シルナの方が運動不足だろ。

シルナの怠惰っぷりと来たら、イレースに「前世はパンダ。来世はトド」と言わせるくらいだぞ。

それなのに、俺が重度の筋肉痛で、シルナは元気いっぱいだなんて…。

運動不足は俺だけだったというのか。

明らかに、俺よりシルナの方が運動不足だろ。

「何だか、羽久がたくさん私に失礼なことを考えてる気がする…」

「…事実だろ…」

「私が元気なのはきっと、チョコレートのお陰だよ!」

…なんか言い出したぞ。

しかも、超ドヤ顔で。