神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

俺は、目の前のシルナをまじまじと見つめた。

「丁度良かった、羽久。今、朝ご飯のデザートに、生チョコどら焼きを食べてたところなんだー」

と言って。

軽快な足取りで、生チョコどら焼き、とやらを一つ手に取り。

「はいっ、羽久もどーぞ。凄く美味しいんだよ、これ!」

超良い笑顔で、俺にどら焼きを勧めてきた。

…つーか、朝ご飯のデザートに生チョコどら焼きって。

朝食のデザートにしては、あまりにも重過ぎる。

しかし、シルナはそんなことはまったく気にしていないようで。

「飲み物淹れるね!ホットチョコレートで良いよね?」

「え、いや」

「じゃあ用意してくるね〜」

「…」

…行っちゃった。

軽やかな足取りで。

生チョコどら焼きを食べながら…ホットチョコレートを飲むのか。

重い。想像しただけで胃が重い。

いや、それよりも。

俺は、一歩踏み出す度に身体中が軋み、壊れかけたロボットみたいな歩き方になっているというのに。

シルナの足取りと来たら、普段とまったく変わらない。

…あいつ、なんであんなに元気なんだ?

筋肉痛は…?

まさか、運動不足は俺だけだというのか。

呆然としながら、しばらく待っていると。

「羽久〜。お待たせー」

大きなマグカップに、並々とホットチョコレートを入れて。

シルナが戻ってきた。

「シルナ…お前、なんで…」

「あれっ?羽久、何でまだそんなところに立ってるの?ほらほら、ソファに座って」

「…」

俺だってそうしたいけど、そこのソファまで歩いていって座ることさえ。

今の俺には、簡単なことではないんだよ。

「あ、そうだ。そういてば、さっきイレースちゃんも来てくれてね」

と、シルナ。

あぁ…。階段で俺を無情に追い抜いていったイレースな。

「イレースちゃんにもどら焼きを勧めたのに、食べてくれなかったんだよ」

「まぁ…イレースはそうだろうな…」

「それからイレースちゃん、私を見て、『あなたは無事なんですね』とか言ってたんだけど…」

「…」

「あれって、どういう意味だったのかな」

イレース、お前も気づいたか。

シルナが予想以上に元気だったことに。

「ま、良いか。それよりどら焼き!羽久、早く座って」

「うっ…」

俺だってそうしたいんだよ。

だけど、そんなに簡単なことじゃないって言うか…。

…くそ。覚悟を決めるしかない。

「…うぐっ…」

ほんのちょっと身体を動かすだけで、みっともない呻き声が。

右手と右足が同時に前に出る、みたいな奇怪な動きで、何とかソファまで歩き。

ゆっくりとソファに腰掛けようとしたのだが、少し膝と腰を動かすだけで、身体が悲鳴を上げる。

「あでっ…!」

思わず身体から力が抜けて、まるで尻もちをつくみたいに、ドサッ、と勢い良くソファに腰掛けてしまった。

たったこれだけのことなのに、涙が出そうなほど痛い。

でも、何とか座ったぞ。

座ったけど、ダメージがデカい。

痛みよりも、情けなさで泣きそうだった。